3月9日の韓国大統領選挙に向けて与野党の選挙戦が激しくなってきた。1月13日付けの中央日報の社説は、「革新与党候補者李在明(前京畿道知事)の強い要請にこたえて、文在寅が3月の選挙の前に補正予算を組むことを受け入れた。そのために企画財政部は税収見通しを操作しているようだ。ポピュリズムがフル回転している」と批判する。与党は現在国会で安定過半数を維持しており、補正予算承認は簡単であろう。
革新与党は、ポピュリストの性格が強い。その候補者である李在明は、日韓関係を含め自分は何よりも実用主義を重視すると言っているが、強い信念というよりも世間のムードで動くポピュリストの性格が色濃い印象を受ける。予測不可能な印象も受ける。発言の撤回も多いようだ。
世論調査の結果も振れており、目下の選挙戦は混とんとしている。1月17日発表の韓国の世論調査会社リアルメーターの支持率調査では、尹錫悦(保守野党、前検事総長)40.6%、李在明36.7%、安哲秀(中道野党、実業家、政治家)12.9%となり、再び尹錫悦リードに反転した。この発表の10日前の7日の韓国ギャラップの結果は、李在明36%、尹錫悦26%、安哲秀15%だった。
尹錫悦の急落は、保守野党に衝撃を与えていた。尹錫悦を支持してきた若者層が安哲秀に流れたといわれる。尹錫悦の急落には理由があった。ひとつは12月来に激化した野党選対委の内部分裂だった。もう一つは尹錫悦の夫人金建希の略歴詐称・誇張(結婚前のものだが)のスキャンダルだった。夫人は12月26日記者会見を行い謝罪、国民の許しを請った。
支持率急落を受けて急遽党内で和解した。また尹錫悦と安哲秀の間の野党候補統一化の可能性が取り沙汰されるようになった。しかしそれは保守野党にとっては一つの可能性にはなるが、過去の例を見ても実現はそう簡単ではない。
主要候補者はどちらも特徴的である。2人とも国会議員の経験はなく、いずれも党内政治的にはアウトサイダー、パラシュート型の候補者であり、党内基盤も強固ではない。
李在明は、文在寅派、李洛淵の非主流派のいずれでもない、謂わば「その他」に属する。尹錫悦は朴槿恵前大統領訴追の際の検事で、今回選挙前に保守野党「国民の力」に入党したばかりだ。両者ともにスキャンダルを抱えている(李在明は大庄洞開発疑惑等、尹錫悦は上述の通り)。人格的には、李在明は直情的、実用主義、ポピュリスト等、尹錫悦は優柔不断とも言われる。
選挙まで1カ月少々となったが、選挙の帰趨はまだまだ分からない。世論調査の結果は非常に不安定だ。保守党寄りになっていた若者層の帰趨も不安定である。他方、政権交代論は非常に強い(世論調査でもそれを望むとの数字が高い)。これは野党に有利になるが、自責点をしないでそれを生かせるかどうかは野党次第である。