EUの一次エネルギー供給におけるロシアへの依存度は、図-1の通りだ。2019年のデータでは、EUのロシア依存度は18%だが、その後、天然ガス輸入に占めるロシアの比率は21年前半まで上昇している(図-2)。20年以降のロシア依存度は約20%と推測される。だが、21年後半からガスプロムはEU向け供給量を絞り始め、欧州エネルギー危機を作り出す原因の一つとなった(「欧州で急騰する電気料金 日本も「明日は我が身」か? 」)。
EUはこの冬を乗り切れるのか
天然ガスに加え、原油、石炭供給においてもロシアの存在感は大きいが、原油、石炭ともに世界には多くの供給国があり、ロシアからの供給が途絶えた場合でも多少の時間をおけば代替は可能なように思える。だが、天然ガス供給は、ガスプロムからのパイプラインに大きく依存しており、欧州でのLNG受け入れ設備能力は増強されたとはいえ、英国のLNG受け入れ能力を含めても、ロシアからの供給能力の86%に留まっていること、さらにLNG供給量に限度があることから、全てを代替することは難しいように思える。
加えて、仮にロシアからの供給が途絶えた国に他国から輸入したLNGを送るにせよ、その能力にも限度がある。例えば、ロシアにほぼ100%依存するスロバキアへの供給が途絶えた場合にはチェコから送ることになるが、そのパイプライン能力はロシアからの6割しかない。しかも、チェコはドイツから送られて来るガスに依存している。要は、ロシアからの供給が途絶した場合にその全てをカバーする設備はない。
EUでは毎年、天然ガスの最需要期になるこの時期、在庫量は減少するが、今年の在庫量はロシアが供給量を落としていることから、史上最低レベルにある。現在の在庫量はフル能力に対し30%だ。米国からのLNG輸入量は増えているが、最近ではLNGの在庫量も減少している。さらに、ロシアからの供給量が落ちた場合にフォン・デア・ライエン委員長が主張するように乗り切れるのだろうか。
ロシアはウクライナとの天然ガス供給交渉が難航したため、06年、09年と2度ウクライナ向け天然ガスを遮断した。ともにEUの厳冬期1月のことだ。当時、ロシアからEU向け天然ガス供給の8割から9割はウクライナ経由だったため、EU諸国向け供給が途絶することになり、途絶が2週間近くに及んだ09年にはロシア依存度が高い中東欧諸国は暖房ができない大きな困難に直面した。
この経験から、EU内の天然ガス貯蔵設備の増強、LNG受け入れ基地の建設、ウクライナ以外の供給ルート強化が図られた。供給ルート多様化の一つが、ロシアからバルト海経由ドイツに直接天然ガスを供給するノルド・ストリーム1パイプラインだった。11年に完成したノルド・ストリーム1が成功したことから、ドイツ政府の後押しを受けノルド・ストリーム2の建設がガスプロムと欧州企業により進められた。
米国が嫌ったノルド・ストリーム2
18年7月欧州を訪問した米トランプ前大統領は、ノルド・ストリーム2について「ぞっとする」と発言し、建設を進めていたドイツを「ロシアの捕虜」になっていると批判した。ロシアからの天然ガスに代え、米国のLNGを購入せよとも取れる発言を受け、ドイツはLNG受け入れ基地建設を進めているが、まだ完成していない。
トランプ前大統領は、19年12月、ノルド・ストリームの建設工事を行っていた企業を対象に制裁措置を発表し、工事が中断することになった。ガスプロム関連企業が工事を引き継ぎ予定より遅れたが完工し、21年9月からドイツの規制当局による使用前審査が開始された。
当初4カ月の審査期間が予定されていたが、事務手続きの問題から審査期間が2カ月延び3月に終了予定となった。ドイツ政府機関の審査終了後、EU機関による審査が開始され、さらに2カ月から4カ月必要とされている。