2022年12月2日(金)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2022年3月10日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

 馬英九前総統までが今回、ウクライナ情勢と絡んで記者団に米軍救援に関する見解を問われた時、「米国は、武器を売り、情報をくれるが、兵は出さない」と述べている。台湾の元指導者としてはかなり思い切った発言だ。

 昨今の米国政界がほぼ民進党支持一色で、国民党に対しては冷淡であり、国民党は対米関係の運営で民進党より劣勢を強いられていることも、米国の関与を小さく見せようという国民党のスタンスに関係している。

「次期総統」最有力とTSMC創業者、ポンペオ氏が食事

 米国も、中国という競争相手が絡んでくる台湾の問題だけにリアクションは素早かった。皮切りは、やはりトランプ前大統領。

 「台湾は、次の潜在的な侵攻目標になる」

 そのトランプ大統領のもとで国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏が3月2日から5日にかけて、台湾を訪れた。台湾外交部は「長年の揺るぎない友人で、台湾への度重なる武器売却や安全保障をめぐる米政府の支持強化など、台米関係を発展させた貢献者だ」として、訪台を歓迎した。

 ポンペオ氏は対中強硬派として知られ、トランプ政権末期の2020年11月には「台湾は中国の一部ではない。米政府は過去35年間、この政策を守っている」と述べるなど、台湾寄りの発言を繰り返していた。

 関心を集めたのが、政権ナンバー2の頼清徳副総統主催でポンペオ氏との夕食会が開催され、そこに世界最大の半導体製造企業「TSMC」の創業者、張忠謀(モリス・チャン)氏夫妻が現れたのである。

 TSMCが勝負をかけた最新の半導体製造工場を台湾・台南市に立ち上げるとき、当時台南市長だった頼清徳氏はTSMCを全面的にサポートし、モリス・チャン氏と個人的に深い関係を結んだとされる。

 TSMCはトランプ政権時代にアリゾナへの工場進出を米側から頼み込まれて決定している。米国が台湾重視を近年強めている理由の一つにTSMCなど台湾の半導体産業があることは周知の事実だ。24年の米大統領選で共和党の候補の一人と目されるポンペオ氏と「台湾半導体産業のゴッドファーザー」と呼ばれるモリス・チャン氏、次期総統の最有力候補とされる頼清徳氏というマッチングは、政治的想像力を掻き立てられる光景だった。

 一方、民主党のバイデン大統領も黙っていない。

 もともと予定されていたポンペオ氏の台湾訪問よりも1日早く、マレン元米軍統合参謀本部議長らによる非公式訪問団を台湾に送り込んだ。マレン氏は蔡英文総統と会談して「台湾海峡の平和と安定は全世界の利益であり、米国は一方的な現状変更に反対し続ける」と述べた。

 バイデン政権による台湾支持のメッセージであり、トランプ前大統領やポンペオ氏への牽制でもあった。

 「今日のウクライナが明日の台湾」かどうか、すぐには答えの出る問題ではない。ただ、かつてウクライナで起きた13年から14年にかけての民主化運動「マイダン革命」は、権力に対する抵抗運動として14年の台湾のヒマワリ運動、香港の雨傘運動に素早く波及した。ウクライナや台湾のように、地政学的要衝にある地域では民衆の感情は大きく振れやすく、大国の介入も起きがちだ。ウクライナ情勢が台湾へ何も波及しないと考える方が非現実的ではないだろうか。

  
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