「約束は守られるべきである= pacta sunt servanda(パクタ・スント・セルヴァンダ)」というのは、古代ローマ帝国以来、安定した社会関係を営む上で大原則だが、「約束と信頼」を何よりも重視する朴大統領にとって基本的な行動原理であり、外交政策、中でも、対北朝鮮政策の基調になっている。つまり、自ら先に約束を破ることはしないが、相手が約束を守らない場合に対して予め十分な備えをしておくということである。もっと言うと、そもそもそうさせないためにも、「確かな安保」、さらには「確実な抑止力」が大前提になっている。北朝鮮の核実験以前は、「確かな安保」という用語を常用していたが、就任の挨拶では「確実な抑止力」と踏み込んだ。「確実な抑止力」とは、言うまでもなく、米韓同盟に基づく拡大核抑止力のことである。
「大統領の外交安保」のための「大統領親政体制」
対北朝鮮政策に限らず、対日政策も含めて朴大統領の外交安保政策を読み解く上で注目すべきなのが、組織と人事である。
大統領制では、日本のような議院内閣制とは異なり、大統領だけが唯一の執政長官である。まして、外交安保政策は大統領の専管事項である。韓国の場合、外交安保を担当する内閣の閣僚は「長官(Minister)」と呼ばれるが、その本質は米国の国務(/国防)「長官(Secretary of State/Defense)」や大統領府のスタッフと同じで、「大統領の秘書(secretary)」にすぎない。その分、その自らの秘書を内閣と大統領府の間でどのように構成し、誰を据えるのかに、大統領の意向が如実に反映される。
外交安保に関する朴大統領の組織や人事の特徴は、まさに、こうした大統領制の本旨のとおり、大統領の意向が大統領府だけでなく内閣、さらには議会に対しても貫徹するようになっている点にある。いわば、「大統領の外交安保」を実現するための「大統領親政体制」というわけである。
外交安保のコントロール・タワーは
金章洙・国家安保室長
大統領府と内閣の関係は歴代政権で発足時に特に問題になるが、外交安保に関する限り、朴大統領は大統領府が優位であることを明確にした。大統領府に国家安保室長を新設し、外交安保政策のコントロール・タワーにすると明言している。
国家安保室長は大統領府内部で秘書室長や警護室長と同じ長官級であるため、それぞれ分掌された領域で自律的に権限を行使し、長たる大統領だけに服する。また、内閣との関係では、外交部長官や国防部長官、さらには北朝鮮との関係を取り扱う統一部の長官やインテリジェンス機関である国家情報院の院長とは同格であるが、職責が明確に区分されている。内閣の部局は日常的な業務を担う半面、国家安保室は中長期的な国家戦略の樹立や部局間の政策調整、それに危機管理を掌握するとされている。つまり、同じ長官級とはいえ、国家安保室長が外交安保政策の最終的な企画調整を任されていて、ただ大統領に対してのみ責任を負っているという体制である。