2022年12月7日(水)

21世紀の安全保障論

2022年4月10日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

明海大学外国語学部教授

日本国際問題研究所主任研究員を兼任。専門は日本の外交・安全保障、日米同盟、インド太平洋の国際関係。主な共著に『アジアの国際関係―移行期の地域秩序』(春風社)など。
 

「手のひらの中の戦争」を機に安全保障について議論せよ

 湾岸戦争は「テレビで観る戦争」であったが、今回の戦争はスマートフォンで戦況を追うことができる「手のひらの中の戦争」である。SNSを通じて若い世代が戦争や安全保障を考えるきっかけになっている。日本では、一部の評論家や政治家の間で侵攻を受けたウクライナ側に責任があるかのような論調がみられるが、安全保障専門家や地域専門家の適切な発信もあって、日本の世論は概ねロシアが国際法に背いて力による現状変更を行ったことに厳しい目を向けている。たとえば、日本経済新聞社が2月に実施した世論調査によると、14年のクリミア占拠のときに比べて、ロシアへの制裁に賛成する割合は3割から6割に増えている。それは、日本政府がこれまでのロシアとの友好関係を重視する方針にとらわれず、厳しい制裁を加えることができた背景ともなっている。

 ウクライナ戦争をうけて、日本の世論の8割近くが台湾情勢への波及を懸念している(同調査)。すでにみたように、ウクライナ情勢によって中国による台湾侵攻の時間的猶予は生まれたかもしれない。しかし、中国の脅威が消えたわけではなく、油断することは許されない。22年末までに「国家安全保障戦略」を見直すこともあり、これを機に台湾有事などに向けた日本の安全保障について真剣かつ現実的な議論を行うべきである。

 そのためには、まず国際関係の現状を正しく認識する必要がある。西側民主国家が中露の強権主義との対立を深める中、中国やロシアとの友好関係に期待するのではなく、現状変更を行っている両国への対抗が基調とならなければならない。また、アジアにおいては中露との友好関係の維持を目指す国が多いため、日本は対露制裁の必要性や「台湾海峡の平和と安定の重要性」をインドや東南アジア諸国と確認するなど、働き掛けを強化する必要がある。

 次に、「安定・不安定パラドックス」から台湾有事が日本に波及することを防ぐために、日米の拡大抑止協議を深め、大量破壊兵器の威嚇に屈しない態勢を築く必要がある。一部の政治家が提起した日米で核共有を行う案はデメリットもあるが、核の傘の運用に関する政治レベルの協議は日米でも取り入れるべきであろう。

 さらに、中国が対米戦略上の防衛線と位置づける第一列島線の航空優勢を確保するために、自衛隊の防空システムの向上に加えて、独自の打撃力の導入と、米国の中距離ミサイルの日本配備、そしてフィリピンおよび台湾との情報協力が必要である。また、今後防衛費の増額が見込まれる中で、効率的かつ効果的な使途が求められる。たとえば、イージス・アショアを海上に配備することは合理的ではなく、地上への配備に戻すべきである。これによって弾道ミサイル防衛を強化できるとともに、イージス艦を南西諸島での航空優勢の確保のために投入しやすくなる。

(出所)「令和3年度防衛白書」、厚生労働省「令和2年人口動態統計」を基にウェッジ作成 (注)自衛官の定数と現員数は年度、出生数は年次データを使用 写真を拡大

 最後に、少子化が日本の安全保障に与える影響についても真剣な検討が必要である。ウクライナ人が示したのは、国家安全保障における自助努力の重要性である。出生数が100万人を切る中、自衛隊が毎年1万人の隊員を採用することは現実的ではない。省人・無人化技術の活用や、予備自衛官制度の拡充などに早急に取り組む必要がある。

 
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 ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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