豪州、沖縄、英語塾
広がる人と人とのご縁
健栄住宅商事の本社店舗は、歴史的な街並みの残る旧市街の中にある。店舗の外見は、元の街並みを崩さないよう外装に地元の土を使い、町家として建て替えた。不動産のカウンターは1階。そこにカフェを併設した。人が集まる場にしたかったからだ。コーヒー1杯230円ということもあり、地元の常連さんが日に何回もやってくる。
人と人とのつながりは、思わぬ方向に広がっていく。広い知見を得ようと11年頃から豪州や米国へ出かけて行った。豪州で同じ歳のリアルター(不動産業者)と出会い、取引を学ばせてもらった。日本では、「土地転がし」などと不動産業者に対して良いイメージを持たれないこともあるが、海外では社会的地位も高い。法制も、取引の仕組みも、日本は遅れていることを実感し、英国法制に近い豪州での事業は必ず役に立つと考えたのだという。このとき出会ったリアルターに現地社長を務めてもらい、18年に念願であった現地法人を設立した。
沖縄で居酒屋も引き継いだ。社員旅行は沖縄・恩納村と決まっていて、必ず立ち寄っていた居酒屋で、高齢化を理由に店を引き継いでくれないかと本気で声を掛けられた。いずれも人と人のご縁が形になっていく。
地元高山では英語学習塾も始めた。フランチャイズ展開している経営者と知り合ったのがきっかけだった。教育事業に携わってみて次の世代を育てていくことの重要性を痛感した。「不動産業できちんと基盤を確保できたら、次は奨学金制度を作りたいんです。貧富の差も広がり、教育の機会は偏在化しています。資源のない日本の財産は人材だけ。子どもは自分で育つ環境を選ぶことができないし、いずれはそれを支えることをやりたいですね」
「高山で仕事をするようになり、ありがたいことに『昔、じいちゃんに世話になった』という話をよく聞くんです。父は学者で、お金にこだわって生きることは空しいだけだと育てられました。仕事を通して、たくさんの「ありがとう」を紡ぎ出すこと。お金はいつでも後からついてくるものだと考えています」
長瀬さんの「出会いの創生」はまだまだ続きそうだ。
写真=湯澤 毅 Takeshi Yuzawa