2022年12月6日(火)

プーチンのロシア

2022年5月2日

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 ロシア産の天然ガスの約7割の輸出先である欧州諸国からは、購入契約に違反しているとして拒否する声が相次いだ。これに対しロシアは、天然ガスの輸出を手がけるガスプロム傘下の銀行が外貨で入金できる特別な口座を開設。そこに外貨で代金が振り込まれれば、ルーブルへの換金を代行するというスキームを打ち出した。

 このスキームをめぐっても批判が上がるが、いずれにせよ天然ガスの輸出代金がロシアに入る限り、ルーブルは買い支えられる。欧州連合(EU)諸国は現在、天然ガス需要の約4割をロシアに依存。ロシアのウクライナ侵攻以降の1カ月で、EUはロシア産エネルギーの調達費用として350億ユーロ(約4兆8000億円)を支払ったとされ、制裁を受けても、現時点では潤沢な外貨がロシアには流入し続けている。

 ルーブルの上昇を支えているとみられるもう一つの要素がある。輸入の減少だ。商品を海外から輸入する際に、支払いに使う外貨を調達する必要性が低下していることも、ルーブル相場を押し上げているとみられる。

 戦争による物流網の混乱や経済制裁を背景に、ロシアとビジネスを行うことのリスクが高まり、欧米や日本など多くの海外企業はロシアへの輸出を控えはじめたもようだ。例えば日本の場合、3月の対ロシア輸出額は自動車やその部品輸出の急減により、前年同月比で31.5%減少した。ロシア国内の自動車工場の稼働停止などが背景にある。ロシアビジネスを継続することによる企業評価へのダメージや、ロシア経済そのものの悪化を懸念する多くの海外企業がロシアビジネスから撤退・縮小する動きを強めており、各国の対ロシア輸出は急減しているとみられている。

 現在のルーブル相場の上昇は、国際市場でルーブルが価値の高い通貨であることを意味しない。それでもプーチン氏が強引にルーブルを買い支える背景には、ウクライナへの侵略が自国経済に与える影響を不安視する国民の目を誤魔化す狙いがある。

歴史的にルーブル価格を注視するロシア国民

 モスクワなどロシアの主要都市には、いたるところに外貨とルーブルの換金所がある。ソ連崩壊以後、自国通貨の暴落を何度も経験し、財産が紙くずになってきたロシア国民にとっては、ルーブルが下落する前にいかに好条件でドルやユーロに換金できるかが生活防衛には必須となっている。そのためルーブルの換金レートを示す電光ボードに、外貨で収入を得るわけでもない多くの市民が関心を寄せている。

 ウクライナ侵略によりロシアは巨額の戦費を喪失し、各国からの厳しい経済制裁を招き、国際的な経済システムから切り離されつつある。そのような厳しい状況から国民の目をそらすためにも、ルーブルの安定維持はプーチン政権にとり必須だ。

 ただ、このような対抗策でルーブルを支え続けることがいつまでできるかも不透明だ。欧州では今、ロシアへのエネルギー依存を縮小させる動きが急速に広まっている。すでにバルト3国は4月下旬、ロシア産ガスを輸入停止したと明らかにした。イタリアも北アフリカのアルジェリアからの天然ガス輸入拡大で合意。イタリアはスペインを経由した天然ガス輸入の拡大に向け、パイプライン敷設も協議を開始した。

 さらにポーランドとブルガリアをめぐっては、ロシアは提示した支払い条件に同意しなかったとの理由で、4月下旬にはガスの供給を止めた。天然ガス輸出を欧州への脅しに使う姿勢を改めて鮮明にした格好だが、このような動きが欧州のロシア離れを加速させ、結局はロシアの収入の減少につながるのは確実だ。

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