スイスは自国通貨高でも豊かになれた?
ここでどの図でもスイスは自国通貨高になっている。にもかかわらず、スイスは日本よりずっと豊かである。日本もスイスのような国になぜなれないのかという疑問があるかもしれない。
その理由は、第1に、スイスも自国通貨スイスフラン高のトレンドを持っているが、日本のように大きなトレンドをもったことはないことだ。第2には、日本のように大きく変動したこともない。これらによって、スイスは自国通貨の上昇や変動に対する準備ができた。
第3に、スイスは常に人手不足経済の中で自国通貨高を経験した。通貨が上昇してコスト高になれば海外に生産拠点を移していった。さらには、海外の企業を買収して自国の人材を派遣するようになった。
人口864万のスイスには、グレンコア(エネルギー)、ネスレ(食品)、チューリッヒ保険、ロシュ(薬品)、ノバルティス(薬品)、スイス・リー(再保険)、UBS(金融)、ABB(重電、重工業、産業用ロボット)、クレディスイス(金融)などフォーチュン500の世界的大企業が14社もある。米国は122社、日本は53社で、人口当たりにするとスイスは62万人に1社、日本は240万人に1社となる。
なぜそうなったかと言えば、まず、スイス人はマルチリンガルで、他国で働くことのハンディが少ない。スイスの大学生で英語の話せない学生はいない。そのような人々が世界に散って経営力を身に着けた。
日本はまず学生の語学力が低い。円安がダメだという大学の先生には、まず学生の能力を上げて欲しい。
さらにスイスでは国内の競争がある。日本には、323社(内資285社、外資38社)の製薬企業がある。さらに、調査対象の製薬企業にもかかわらず厚生労働省の調査に回答しない企業が114社もある(「医薬品・医療機器産業実態調査」2020年)。これほど企業数が多いのは、厚労省の護送船団行政のゆえだろう。
国内で競争していない企業が世界で活躍できるはずがない。多少の円高でも大丈夫にするには、人材の質を上げ、日本国内での競争を強化するしかない。それなしで円高にするのは、生産性を無視して無理やりに賃金を上げるようなものだ。