化石燃料価格が押し上げる電気料金
今年3月の化石燃料価格を基に電気料金1kWhに占める燃料費を試算すると、米国天然ガス火力の3米セント(約4円)から、欧州天然ガス火力の26米セント(約34円)までの幅になる(図-3)。輸送、荷揚、前処理などの費用を含まないコストなので、実際に火力発電所で使用される際のコストはもっと高くなる。
欧州諸国の電源別発電量比は図-4(下)に示されている。天然ガス火力の比率が約20%あり、天然ガス価格の上昇が電気料金に大きな影響を与える。10年代に減少を続けた石炭火力からの発電量が、20年比18%増となった。天然ガス火力の価格上昇により、相対的に価格が安かった石炭の利用が増えたためだ。
天然ガス、石炭火力発電量の占める比率が日本より低いとは言え、火力発電のコスト上昇は、卸市場価格の上昇を招いた。コロナ禍の影響により需要が低迷した20年前半には1kWh当たり数ユーロセントであった欧州主要国の卸価格は、今20ユーロセント前後まで上昇しており、英国、ドイツなどでは卸市場から電気を仕入れ小売りを行っている小売事業者が退場を余儀なくされた。
ドイツでは、1月時点で300万世帯が小売事業者破綻の影響を受けている。家庭向け小売業者が破綻した場合には、大手小売事業者あるいは地域の電力公社が継続して供給を行うことになるが、デュッセルドルフを州都とするノルトライン=ヴェストファーレン州では、消費者保護センターが破綻後に行われる供給の電気料金が高すぎるとして警告を出す事態となり、それまでの1kWh当たり92ユーロセント(126円)が54セント(69円)に値下げされたと報道された。
日本では家庭用の供給については大手電力でも新電力でも選択可能だが、産業・業務用の新規供給を行う事業者は、今極端に減少している。エネルギー価格と発電コストが上昇し、料金体系が家庭用と異なり料金が相対的に安い産業・業務用の供給を行うと多くの事業者は赤字になる。加えて将来のエネルギー価格と発電コストの見通しが立たないためだ。
上がり続ける卸電力価格
電力市場は16年から家庭用小売りを含め全面的に自由化された。電力供給事業では、発電、送配電、小売りと大きく3分野に分けることができるが、自由化されているのは、競争原理によりコスト、価格の下落が予想される発電と小売り部門だ。複数の設備が設置されると投資が二重になる送配電部門は、大手電力から法的に分離された地域ごとの送配電会社が担っている。
自由化された小売部門には、それまで地域での電力供給を行っていた大手電力に加え、新電力が参入し、現在700社を超える小売り企業が登録されている。新規参入の新電力の中には自社で発電設備を保有する会社、あるいは発電設備を保有する事業者からの電力購入契約を締結している会社もあるが、多くは卸電力市場から電気を購入し販売している。