2024年4月17日(水)

World Energy Watch

2022年5月6日

必要な制度の見直しと脱ロシア化石燃料

 緊急避難的な最終保障供給制度を利用する大口需要家が増えているのは、最終保障の価格が市場に連動していないためとも考えられ、今、経産省では見直し作業が行われている。また、燃料価格上昇を電気料金に反映する燃料調整費制度も十分に機能せず、大手10電力のうち5社が22年3月期赤字になった(「繰り返される停電危機 日本はどこまで没落するのか」)。

 大手電力の赤字が続くと低収益の発電設備の削減が進む一方、発電設備の新設が行われず停電の危機が増すことにつながる。公益事業を担う企業に適切な利益が保証されるような制度の見直しも必要だが、自由化後、制度の手直しが続き、つぎはぎだらけになっている。安定供給を損ない電力危機を招いた自由化の制度見直しの終わりも見えない。

 電気料金上昇局面では、消費者も気を付ける必要がある。ドイツでは、最近の高騰している卸電力市場の価格を示さないまま、固定電気料金から卸電力価格に連動する電気料金への切り替えを消費者に求めた電力小売り会社があった。また、エネルギー価格の上昇は契約上の不可抗力条項に相当するとして一方的に契約を破棄した小売り事業者も出てきた。さらに、卸電気料金が上昇したため契約していた電気を小売りせず卸市場で売ってしまい、小売り契約を一方的に破棄した事業者も出たようだ。日本でも小売事業者を選択する際には、契約内容を吟味した上で契約することが必要な時代になった。

 欧州諸国は脱ロシアを進めている。日本は、原子力と再エネ依存度が相対的に高い欧州とは事情が異なり、化石燃料依存度が高い。だが、日本だけロシアの化石燃料依存を続けることは、主要国が脱ロシアを実現すれば難しくなる可能性がある。

 世論調査では脱ロシアによるエネルギー価格上昇を容認する人も多いが、脱ロシアの価格への影響を緩和する自給率向上策、原子力と中国依存ではない再エネ導入(「エネルギーの脱ロシアの先にある中国依存というリスク」)を早急に進めることが必要だ。

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