このような改革を成し遂げるにはある程度の強引さも必要であり、マクロンのエリート体質も相まって、大衆の反感を買うことは無理もない面がある。他方、マクロンは、それなりに経験から学ぶことができる政治家であることは、黄色のチョッキ事件の収拾で実証されており、この大統領選の勝利演説でも、極右候補を支持した有権者の怒りを理解し公正な国家を目指すと発言し、謙虚な姿勢を示した。これは、次の注目点となる6月の国民議会選挙を念頭に置いたものである。
地方組織のない与党はどう戦うのか
国民議会選挙は、小選挙区制で、2段階投票制であり、1次投票で過半数を取る候補がいなければ、12.5%以上を獲得した候補の間で決選投票に臨むことになる。そのため選挙区ごとに調整や連合が行われる。いずれにせよ、マクロンかルペンの選択ではなく、国政に国民の声を反映できる選挙と位置付けられる。
マクロンの与党「共和国前進」は、地方に党組織が十分に定着しておらず、また、ウクライナ問題等の外交政策よりもインフレ対策や社会保障等生活に密着した問題が争点になることから、マクロンも対策を考えるであろうが苦戦は免れないであろう。過半数を維持できない可能性も指摘されており、その場合には、首相の任命の問題を含め製権運営上の困難に直面することになる。
他方、極右派は、ゼムールがルペンへとの共闘を表明しており、更なる影響力拡大のチャンスと位置付けている。極左のメランションも、マクロンに対する歯止め役として既に首相を目指す選挙キャンペーンを進めている。
小選挙区選挙であるので、選挙区に党組織や地縁の蓄積のある共和党や社会党、或いは緑の党もある程度は巻き返すであろうが、共和党が極右派から票を取り戻しマクロンと共闘できるか、或いは、極右派に埋没するかが1つの鍵であろう。左派は、社会党等がメランションの党を核に再編される可能性もある。マクロン批判の票は、極右と極左に分裂することから、ルペンだけにとって有利となるともいえない。