トラス外相は、その文脈において、インド太平洋地域では中国がルールを破っているとして、厳しい警告を発している。特に、守るべき民主国家として台湾の名を挙げていることは、強いメッセージと言える。
日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」にも合致
英国は既に、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に参加し、日本とも安全保障協力を進め、インド太平洋に空母打撃軍を含む艦隊を派遣し、インド太平洋地域で合同軍事演習に数多く参加し、TPP11への参加も申請するなど、インド太平洋におけるプレゼンスを強めてきた。ただ、ロシアによるウクライナ侵略を受け、英国はインド太平洋に手が回らない、あるいは手を伸ばし過ぎるべきではない、という意見も見られる。
トラス外相の演説は、こうした意見への反論としても意味が大きいと思われる。ルールに基づいた国際秩序維持の観点からも、地政学的観点からも、英国がインド太平洋におけるプレゼンスを弱めるとは想定しがたい。
英国の方針は、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」とも合致しており、英国は心強いパートナーである。トラス外相の演説の後、5月5日に英国で行われた日英首脳会談においても、岸田文雄首相とジョンソン首相は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け日英が緊密に連携していくことを改めて確認した。
首脳会談では、自衛隊と英国軍の共同運用・演習の際の両者の法的地位や手続き等を定めた「日英円滑化協定」の署名を急ぐことでも合意した。日英間で結ばれれば、日本にとっては同盟国である米国は別として、豪州に次ぎ2国目の円滑化協定となり、日英防衛協力の深化の象徴となろう。