2024年4月20日(土)

茂木健一郎「伝えたい日本」

2009年2月27日

 以前、GoogleのCEOであるエリック・シュミット氏と話をしていたとき、彼が意外なことを言いました。「一人の天才よりも、30人の平凡な人間の意見を集約したほうが、結果としてはいいものができる」と。この発想は、一見とても日本的です。何せ欧米人は「スティーブ・ジョブス一人がiPhone」を生み出したと言う人びとですから。それなのに、「和」の精神が大事だと言うわけです。

 しばらく前まで、アメリカ型経営手法がよしとされていた風潮においては、「個性」「個人」という文字ばかりが踊るようになり、日本人が古来より大切にしてきた「和」の精神は、「没個性」などと言われて大事にされませんでした。

 ところがインターネット時代に入り、その様相が少し変わってきたのです。一人の強烈なリーダーが何かを創造するのではなく、多くの人間の知恵を集める。そういう日本的な方法論が、むしろ輝く時代になってきました。日本的な「和」の精神や、「協調」を重要視した人間関係。そういう価値観が一回りして、今では時代の最先端になってきている。まずはそのことに気づくことです。「和」の精神など古い。そう言っている人ほど古い考え方であるということでしょう。

 もちろんこの「和」の精神がオールマイティーになるわけではありません。どんな文化にもいい面と悪い側面があるものです。日本人の「和」の文化にしても、逆に言えば突出した「個」が出にくいというネガティブな側面もありますし、意見集約に時間がかかるという欠点もある。しかし、自分たちの文化を眺める場合には、そのいい面と悪い面を冷静に把握する必要がありますから、それを踏まえた上で、世界に自国の文化を発信していくことが大事です。日本文化の欠点を冷静に把握しつつ、いい面を積極的にアピールしていくこと。それがこれからの社会には必要だと考えます。

 それはまた日本の歴史で言えば、「万葉集」に遡る徹底した日本人の世界観と言えましょう。「万葉集」は、天皇であろうが防人であろうが作者の位に関係なく、詠歌を収めている。「やまと歌は、人の心を種として」という紀貫之の有名な序があるように、すべての歌は民衆の心に存在するというのです。

 「日本人は創造性に欠ける」とよく言われてきました。しかしそれは全くの間違いです。日本人はたった一人の人間に創造を託すのではなく、衆知をもって独創性を生み出していく。この素晴らしき日本人の創造性は、世界に誇るべきものではないでしょうか。

 日本人の哲学とは、すべてのパスを出した人間を評価するのです。名のない人間をも評価しつつ、皆の力で何事も成しえていく。そこにこそ日本人の創造性の美学があるわけで、それをもっと海外に示していかなくてはなりません。それこそが本当の意味でのグローバル化ではないかと思っています。つまり海外に対して、日本人の価値観をきちんと説明していくこと。そのことが求められている。

 いま、日本人のもつ素晴らしい創造性を、今一度認識する時機に来ているのではないでしょうか。日本人こそが創造性を育んできた。そのことに思いを馳せていただきたいと願っています。

◆この続きは、3月5日(金)に更新予定です。

 


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