2024年11月22日(金)

復活のキーワード

2013年4月16日

 これを打破するための「アジェンダ2010」の柱は、労働市場改革、年金改革、企業法制改革だった。事実上解雇ができなかった雇用制度のために、ドイツの労働コストは欧州域内でもトップ水準だった。これを一気に解雇しやすくしたのだ。企業は競争力を取り戻すために相次いで大幅な解雇を実施した。その結果、05年には失業者数が500万人を突破、失業率は12・7%にまで高まったのだ。シュレーダー首相は国民の不満を一身に浴びて退陣を余儀なくされた。

 その後どうなったか。ドイツ企業は競争力を取り戻し、ユーロ圏の拡大やユーロ安による輸出増の恩恵をフルに受けた。ターゲットであった10年には失業者が300万人に減少したのだ。

 産業競争力会議で坂根氏も「ドイツに学べ」と主張している。米国や英国よりも、モノづくり大国であるドイツの改革を学ぶ方が日本に参考になる、というのだ。「単位労働コスト切り下げ」に向けて社会保障費の企業負担の削減や派遣法の改正を求めている。

 強い企業をより強くすれば、雇用は生まれる。だが、ドイツ企業はさらに一歩踏み込んだ。12年3月に好業績を謳歌した自動車大手フォルクスワーゲンは従業員に7500ユーロ(75万円)の高額ボーナスを支給したのだ。企業業績向上の恩恵は従業員にも波及。ユーロ通貨危機にもかかわらず、ドイツでは個人消費が大きく盛り上がった。「痛み」を乗り越えた構造改革の果実を、個人が手にしたわけだ。

 安倍首相は経済界に対して、内部留保を取り崩して若年層を中心に給与を増やすよう要請している。産業競争力会議の議員である新浪氏が社長を務めるローソンなどが、真っ先に給与引き上げに動く意向を示している。アベノミクスの恩恵をできるだけ早く個人に回し、消費につなげたいという狙いが背景にはある。だが本筋は、構造改革によって「強い企業がより強くなり」、企業収益が改善する中で、社員にも給与増や賞与として利益を配分していくことだろう。

 もう1つ、ドイツが同時に行ったことがある。経営のグローバル化だ。社外取締役の導入が進むなど、経営者に収益を向上させるプレッシャーを与える仕組みができたのだ。ドイツ銀行など銀行が大量に保有してきた企業株式の売却も進み、ドイツ型の「株式持ち合い」も大きく崩れた。ぬるま湯の中で企業がもたれ合う体制を排除したのである。本物の強い企業を作るには、支えるだけではなく、企業や経営者を寒風に晒すことも大事だろう。

◆WEDGE2013年4月号より

 

 

 

 

 

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