バイデン氏は、オバマ政権の副大統領だった2013当時、アジア太平洋経済連携会議(APEC)の首脳会議に共に出席した安倍晋三首相と朴槿恵大統領の二人が壇上でわずか30秒の言葉しか交わさなかった冷え切った状態を目の当たりにして以来、両国首脳に機会あるごとに首脳会談や相互訪問の実現を直接働きかけてきたことで知られる。
その結果、16年11月、安倍首相と朴大統領との首脳会談がソウルで、19年5月、安倍首相と文大統領との首脳会談が東京で、それぞれ開催された。だが、具体的関係改善には至っておらず、その後は、対面での直接会談は開かれていない。
コロナ禍、ウクライナ情勢下でも日韓訪問
しかし、バイデン氏は大統領就任後も引き続き、日韓関係促進を重要外交課題のひとつとして位置付けてきた。その根底に流れるのが、大統領選最中だった20年、外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)」春季号で開陳した包括的外交・安全保障政策に関するいわゆる「バイデン・ドクトリン」にほかならない。
これは、増大する中国の脅威を念頭に自由主義陣営の結束の大切さを訴えたものであり、具体的に以下のような重要な指摘がなされた:
「中国の挑戦を受けて立つのに最も効果的方法は、わが同盟諸国、パートナーによる共同戦線を構築し、中国の常軌を逸するさまざまな行動や人権違反に直接向き合うことである。わが国は世界全体の国内総生産(GDP)の4分の1を占めており、これに民主主義諸国を加えれば、そのパワーは倍以上になる。中国は世界経済の半分以上の存在を無視できなくなる」
「同盟諸国に対するわが国のコミットメントは神聖なものであり、トランプ前政権がやってきたような金銭取引の対象であってはならない。われわれはわが国のパワーを強化し、プレゼンスを世界に拡大するとともに、北アメリカ、欧州にとどまらず、日本、韓国、豪州3国との同盟関係強化、そしてインド、インドネシアに至る広範囲な地域における民主主義ネットワークづくりをめざす」
「私は大統領として、(トランプ前政権が軽視した)アメリカデモクラシーと同盟関係再建、米国経済の未来防衛のために、直ちに行動を起こす」
そして、バイデン大統領が今回、新型コロナウイルス危機のさまざまな制約を押して、自ら決断したのが、韓国、続いて日本歴訪だった。しかも、ロシアによるウクライナ侵攻以来、世界的緊張がいぜん高まる中での具体的行動だっただけに、その意義を過小評価してはならない。
ただ、一部の日韓両国メディアで、本筋を離れ、歴訪の順序をめぐり、さまざまな観測やもっともらしい〝解説〟が流れたのは、滑稽でもあった。
とくに韓国側では、聯合ニュースが「歴代米大統領は就任後、アジア外交ではまず日本を訪問した」と指摘した上で、今回、バイデン大統領が日本に先立って韓国を訪れたことをまるで日韓の地位が逆転したかのように異例の大きさで報道した。
これに対し、日本側の電子メディアでは、「バイデン大統領にとって韓国は、たんなる前座のお話相手だったにすぎず、真のお目当ては日本の岸田首相との首脳会談だった」といった手前勝手な専門家の解釈が伝えられた。