バイデンが韓国を先に訪問した本当の理由
だが、このどちらの見方も的外れと言わざるを得ない。
というのも、バイデン大統領の今回訪日は、昨年9月下旬、ワシントンで開催された日米豪印による枠組み「Quad(クアッド)」第1回首脳会義の場において、「次回22年会議は東京で開催」で合意した時点ですでに内定しており、今年に入り最終的日程の調整のみとなっていたからにほかならない。そしてその段階では、バイデン大統領は、対日関係のみならず、対米関係においても一歩距離を置いてきた文在演大統領との会談目的で訪韓する計画は毛頭なかったのである。
ところが、今年5月24日の第2回「クアッド」開催のタイミングとちょうど重なるかのように、韓国において親米色を前面に押し出した保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)党首が3月9日の大統領選で当選、5月10日に正式就任したことから、急遽、訪日に加え、訪韓を日程に付け加えることになったというのが、真相だ。
そして、東京入りの前にまずソウルを訪れることにしたのは、いち早く尹大統領の就任を祝うとともに、冷え込んだ日韓関係の課題の大半が韓国側にあり、両国関係の早急な立て直しが自由主義陣営の結束を図る上で緊要であることを尹大統領にじかに念押しするためだったとみられる。
繰り返して言うが、バイデン政権にとっては日本、韓国の両国の存在はともに極めて重要であり、歴訪の順序で軽重を論じるようなものでは決してない。今回の場合、尹政権成立の直後というタイミングから訪韓が先になったに過ぎなかったのである。
日米韓3カ国関係の重要性を強調
では、バイデン・尹会談は具体的にどのようなものだったのか。
詳細にわたるやりとりは公表されていないが、首脳会談後、発表された共同声明では、①朝鮮半島の完全な非核化が両国の共通の目標、②米大統領は、韓国に対する拡大抑止の義務を再確認、③ルールに基づいた国際秩序を脅かす全ての行動に反対、④「自由で開かれたインド太平洋」の重要性を認め、相互協力の強化に同意――などの内容のほかに、今回とくに「日米韓3カ国の協力の重要性を強調」との表現が盛り込まれた。
これはすなわち、バイデン大統領が改めて、日韓関係の改善の重要性を尹大統領に直接訴えたことを具体的なかたちで反映させた結果にほかならない。同時に、尹大統領もその重要性を確認したことを意味している。
さらに、バイデン大統領は両首脳共同記者会見の場でも、「経済的にも軍事的にも、日米韓3カ国が緊密な関係を持つことが極めて重要だ」と念を押すことを忘れなかった。
一方、東京における日米首脳会談後の共同声明でも、韓国の新政権発足を歓迎するとともに、具体的に「安全保障を含む、日本、米国および韓国の間の緊密な関係および協力の決定的重要性を強調した」ことが明らかにされた。ただ、バイデン大統領は、岸田首相との共同記者会見の場では、あえて「日韓関係改善」や「日米韓3カ国協力」の重要性についての言及はなかった。
これら二つの共同声明、共同会見発言を比較した限りで言えることは、バイデン大統領は、今回の米韓、日米両首脳会談のいずれにおいても、日韓関係改善の重要性を提起したものの、どちらかと言えば、中国寄りだった文前大統領と異なり対米傾斜を強める尹大統領に対して、この問題に対してとくに説得したことがうかがえよう。