2022年8月10日(水)

ザ・ジャパニーズ3.0(昭和、平成、令和) ~今の日本人に必要なアップデート~

2022年6月2日

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桂木麻也 (かつらぎ・まや)

インベストメントバンカー

カリフォルニア大学卒業・内外の投資銀行に20年超の勤務経験を有する。クロスボーダーのM&Aに造詣が深い。著書に『ASEAN企業地図』(翔泳社)、『「選択肢」を持って「人生を経営」する』(ウェッジ)。

 確かに娘は明るくて気が利く。もちろん自慢の娘である。しかし彼女は学生であって、決して経営コンサルタントではない。しかも飲食業でのアルバイト経験はこれが初めてなのである。

 にもかかわらず、渡米わずか4年にして、娘はアメリカンドリームの入口に立つことができているように見える。だからこそこの信じられないような「ご縁」に対し、私はあれこれ考えてしまう。

 一つは、店のオーナーがかくも娘に肩入れし、MBAの学費や株の譲渡など、娘に投資をしようとするのはどうしてだろうかということだ。複数のレストランを所有・経営し、新店のオープンができるほどの腕を持った経営者である。それがなぜ、アルバイト学生の素人コンサルを重宝がってくれたのであろうか?

 もう一つは、日本においても留学生はたくさんいるが、娘に起こったのと同様のサプライズを享受できている者がいるだろうかということだ。コロナ下における留学生の受け入れについて、岸田文雄首相が「留学生は日本の宝だ」と発言して話題になった。コンビニでも、ファミレスでも、留学生と思しき人が働いているのをよく目にする。果たして、彼らの人生を変えるようなジャパニーズドリームは、わが国にも存在しているのであろうか?

 娘が暮らすのは、ユタ州の片田舎だ。私も行ったことがあるのだが、本当に小さな町で、暮らしている日本人は娘だけかもしれないと思わせるサイズなのだ。娘がお世話になっているオーナーには、残念ながらまだお会いしたことがない。だからここで書くことは推測である。

 オーナーには彼女なりのレストランのオペレーションノウハウがあり、ホスピタリティの哲学があるはずである。そこに留学生である娘が、アルバイトとして突如現れた。「おもてなしの国」から来た娘の所作や提案は、日本人から見れば当たり前のことかもしれないが、米国人にとっては非常に新鮮な気付きを与えてくれたのではないだろうか。

 既に存在する仕組みの上での新しい視点・気付きが元の仕組みそのものを大きく変えることがある。それは世の中に突如現れるスタートアップ企業が、既存の生活の上に全く新たなパラダイムを構築するのと同じだ。

 そのポテンシャルをオーナーは娘に見出し、追加の投資をすることで更なるリターンが得られると踏んでいるのではないか。こう考えるとオーナーの行動は、スタートアップ企業に投資するベンチャーキャピタルのそれと同じものであり、M&Aアドバイザリーを生業としている私には大いに合点がいく。

投資における「Opportunity」の意味

 M&Aの世界において、投資の対象が出現することをOpportunity(オポチュニティ)という。日本語では「機会」と訳されるが、M&Aの文脈で使用されるOpportunityという言葉には、「成功するチャンス」という意味合いを含んでいる。

 M&Aはまず売り手があって、それに対して買い手が名乗りを挙げるというのが一般的なプロセスだ。しかし欧米のM&Aシーンにおいては、買い手の方から「買収したいので売ってくれ」とアプローチするケースがよく見られる。足元でイーロン・マスク氏によるTwitterの買収が話題になっているが、その典型である。

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