2024年5月7日(火)

World Energy Watch

2022年7月26日

 現実に電力需要を上回る供給力があった場合、まず火力の出力調整が行われ、それでも供給力の削減が足りない場合、バイオマス発電を経て太陽光が出力調整(抑制)することで対応しており、原発は基本的に出力調整に応じていない。すなわち原発の発電量が大きくなればその分、再エネが出力抑制を迫られる確率は上がる。

 実際には、原発の出力調整は技術的に不可能というわけではない。現状でも約1時間あれば出力を半分に下げることができる。しかしこれでは分刻みで大幅に出力が変動する再エネに合わせた出力調整を行うことは不可能である。

 再エネを最優先しろとの声は大きいため、三菱重工が原発の出力半減の時間を17分にまで短縮する技術開発を行っているが、実現は2030年代半ばと見込まれている。したがって当面は、原発の再稼働が進めば電力需要が少ない時間帯において原発の発電量が大きな比率を占め、再エネが送電できない事態が生じることになる。

 太陽光は夏季には電力需要の大きい時間帯に出力が拡大する性質があるのでまだ影響は限られるが、政府が現在注力中の風力は電力需要の大小と関係なく出力するので、電力需要の少ない時間帯には風力の出力抑制がかかってくることになるだろう。

太陽光のあまりに低い信頼性と割高なコスト

 それでは再エネ推進派が言うように、原発の再稼働を制止し、再エネへの投資をさらに加速することで電力危機に対応できるのだろうか。

 今夏も6月27日から30日まで、経済産業省が東京電力管内で節電を呼びかける「電力需給逼迫注意報」が発出され、節電の呼びかけがなされた。その最中に著名なニュースキャスターが「今回停電を辛くも免れたのは太陽光のお陰」とツイートして、物議を引き起こす一幕があったが、果たして本当に太陽光は厳しい電力需給逼迫の状況で役割を果たすことができたのだろうか?

 実際のデータを見ると、例えば予備率が6%台まで低下した7月1日、東京電力管内の太陽光の発電出力のピークは11時25分につけた1354万キロワット(kW)であり、13時頃まで概ねその水準を維持していた。正午には太陽光が電力需要の24.8%に当たる出力を供給しており、確かに電力需給を支える役割の一端を担ったと言えよう。

 某キャスターは「東電管内の稼働可能な原発を全部動かしても太陽光発電の最大出力に遠く及ばない。関東の人が熱中症で死なないのは、太陽光パネルのおかげだ」とツイートしたが、東電の柏崎刈羽原発を指すのであれば発言の前半部分は確かにその通りである(柏崎刈羽原発の定格出力は821万kW)。しかし熱中症予防に本当に太陽光パネルは貢献しただろうか?

 実際には太陽光の出力は13時以降、急速に低下し始める。一方、電力需要のピークは14時台の5570万kWであり、この時太陽光の出力は1126万kW、ピーク時より17%も減少している。もっともまだこの時点では太陽光の貢献率は20.2%となかなかの水準である。

 問題はこの後も電力需要は高い水準で推移するにもかかわらず、太陽光は急激に出力を失っていく点である。17時の時点では電力需要は5166万kWでピーク時と比べると7%減少しただけで依然として高い。しかしこの時もう夕方なので太陽光は293万kWにまで低下、貢献率はわずか5.7%でしかない。

 そして19時には依然として4640万kWの水準を維持している電力需要を置き去りに、日の入りとともに太陽光の出力はゼロとなり、火力が需給を支えなければならない。某キャスターは夕方になればエアコンをつけないでも熱中症にならないと考えているのだろうか。ちなみにこの日、7月1日は17時でも32.5度と酷暑であった。

 こういった現実を見ると、原発を稼働せず、再エネの投資を加速化することで安定した電力供給を確保できるという主張は空理空論と言わざるを得ない。例えば太陽光の出力は大幅に低下したが、電力需要は依然旺盛な17時の時点で柏崎刈羽原発と同じ出力を太陽光で保証しようとすれば、現在の821万kW/293万kW=2.8倍の太陽光の発電能力を整備する必要がある。


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