もちろん原発事故によって移住を強いられた方々が多数存在することを踏まえれば、事故の発生確率は出来るだけ下げなくてはならない。しかしリスクはコントロールするものでリスクゼロにするためのコストが極めて高くなる場合、ある程度のリスクが残ることは許容することが望ましい。
ごく低い確率で事故が発生した場合も、健康被害をゼロにコントロールすることができるということが国連科学委員会の分析から明らかになったいま、原発の再稼働に高すぎる障壁を求めるべきではない。電力需給が逼迫している状況があり、気候状況が厳しい夏冬に停電が起これば生命にかかわる事態であることを原発再稼働の是非に関して判断する人たちは重く受け止めるべきである。
世界で動く原発投資拡大、政治は英断する時
折しも、世界的に原発への回帰が進んでいる。再エネ推進派がずっとお手本として持ち上げてきた欧州連合(EU)は7月6日の欧州議会において、天然ガスと原子力を一定の条件の下、EUタクソノミーに加えることを最終決定、23年1月から施行される見通しである。原子力への投資は「グリーンな経済活動」に値するとお墨付きを与えたということだ。
国際エネルギー機関(IEA)も、ウクライナ侵攻という新たな現実を踏まえて、気候変動対策とエネルギー安全保障を確保するため、50年までに世界の原子力発電の設備容量を倍増させる必要があるとの報告書を公表している。
柏崎刈羽原発では停止期間が長引いたことで36%の運転員が原発の運転経験なしという事態となっている。世界的にも原子力への追い風が吹く中、世界でも先端水準にあったわが国の原子力産業の復活に向けて一刻も早く動くべき時である。
再エネ推進派は声高に反対の声を上げて大騒ぎするだろうが、本稿が指摘したように、再エネでは電力の安定供給の責任を果たすことができない。国民の生命と生活を守るべく、政治の英断が待たれる。
なお、岸田首相は7月14日の会見で「9基の原発の稼働」に言及した後、「火力発電の供給能力を追加的に10基を目指して確保する」とも述べている。原発と比べると、あまり関心を持たれなかった火力に関するこの下りは電力需給に及ぼす影響という点では非常に重要だと筆者は考える。この点については別稿にて考えを述べたい。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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