2024年5月7日(火)

World Energy Watch

2022年7月26日

再エネへの投資拡大に国民は耐えられるのか

 2022年度の再エネ賦課金の合計は2兆7441億円であり、国民1人当たりの負担額は年間2万1981円に上っている。経済産業省は再エネ賦課金の1世帯当たり1万円程度と公表しているが、それは家庭用電力のみで産業用電力の負担を含んでいない。

 産業用電力は企業が支払うものであるが、企業の電力負担の増加は従業員たるわれわれ国民の給料の抑制などの形で結局われわれが負担しているものとも言える。この点を考えると、1世帯当たりの負担額は、例えば3人世帯であれば年間6万円を超えているというべきである。

 この金額は太陽光を1キロワット時(kWh)当たり42円で全量買い取りしていた初期の極めて割高な負担額を含むので、これから太陽光を2.8倍にしたからと言って負担額も2.8倍になるわけではない。とは言え、既に国土面積当たりで世界最大量の太陽光を導入しているわが国ではコストパフォーマンスの良い適地はなくなりつつあり、近年はメガソーラーに対する設置反対運動も頻発している。わが国では太陽光の発電コストが今後も低下していく見通しは立ちにくいと言える。

 そもそも再エネ推進派は再エネのコストが安くなったと言い募るが、海外ではともかく、わが国で太陽光の発電コストが石炭火力を下回ったことは未だかつてない(少なくともウクライナ侵攻で石炭が急騰する以前は。そして世界的な化石燃料の高騰の一因として、再エネ最優先の拙速な脱炭素がある。詳しくは別稿にて)。現状の再エネ賦課金を更に引き上げる再エネへの投資加速策にわが国の経済は、われわれ国民の生活は、果たして耐えられるだろうか。

 そして何より、2.8倍の太陽光増強を行ったとしても日没までの2時間の電力需要の18%を支えることができるのみなのだ。19時以降は巨額の投資を行った太陽光設備の発電能力はゼロ、熱帯夜に何の役にも立たない。菅義偉政権で策定されたエネルギー基本計画は再エネを主力電源化するというが、こんな体たらくの太陽光は主力電源となることは不可能である。

 現在太陽光の16分の1しか容量のない風力を強化するというのは一案ではある。風力は風が吹いている限り、夜間でも発電し続ける。しかしその風力も昨秋、中国と欧州で急激な出力低下を引き起こし、中国では停電に陥り、欧州ではあわてて火力の出力を拡大し対応した事実がある。電力の安定供給の重要性を考えれば、風力とて信頼性に欠ける。

放射線被ばくの健康被害を避けられることが判明

 以上の再エネの抱える根本的な問題を踏まえると、安全性の確認できた原発については急いで再稼働を進めるべきというのが理にかなった対策になる。再エネ拡大によって生じた国民の生命に関わる電力危機を避けるため、インフレに直面して悪化するわれわれの生活を経済面から支えるため、原発再稼働は即効性のある特効薬である。

 福島第一・第二原発の廃炉が決まった現状では、東京電力の原発は柏崎刈羽原発のみになるが、それでも821万kWの出力が夜も昼も出力が変動することなく安定的に稼働することになれば、関東圏の厳しい電力需給の逼迫は劇的に改善される。ただし、その場合、原発と共食いする再エネについては今後の設備拡大を抑制するべきであり、再エネ主力電源化という現行のエネルギー基本計画の方針も破棄すべきである。

 原発に関しては、11年の東日本大震災以降、その事故に起因する被害についてさまざまな情報が飛び交ってきた。科学的根拠に基づかない風評が多く、被災地の被害者である福島の人々が傷つけられる理不尽な事態が生じてきた。

 先頃、国連科学委員会が福島第一原発の過酷事故について、「放射線被ばくを原因とする健康被害は認められない」と結論付けた報告書を公表している。世界の放射線医学などの専門家が500本超の論文や調査に基づいた分析結果であり、これによってこれまでの一部のマスメディア報道を含む多くの言説がいかに科学的根拠を欠いたものであったかが明白となった。猛省すべきだ。


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