2024年4月25日(木)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年7月29日

 欧米のように高齢者を中心に多くの死者を出すこともなく、また中国のように無謀な「ゼロコロナ政策」の袋小路で苦闘することもなかった。つまりは、先進国型の「ウィズコロナ」を進めながら、感染拡大を抑制するということでは、終始素晴らしい効果を挙げているのだ。

米国で起きているコロナによる社会混乱

 日米を比較するとして、重症者や死者が人口10万人比で、日本が米国の10分の1以下というだけでなく、社会的な混乱という意味でも日本は優秀だ。

 米国の場合を考えてみると、「ウィズコロナ」の「ノーマル」というのが経済でも社会でも定着しているのは事実だ。だが、コロナの傷跡は深い。

 100万という死者数もさることながら、特に大都市では空洞化による治安悪化が社会問題になっている。ニューヨークなどは、銃撃事件の多発、アジア系へのヘイト犯罪、そしてホームレスの激増、ゴミ収集の停滞やネズミの大量発生など衛生状態の悪化という中で、90年代以降の安全で清潔な国際都市というイメージを再建するのは難しい状況だ。

 また社会の分断も深刻だ。保守州では、武装の権利などの主張に加えて、コロナ対策について「一切の強制を拒否する」という風潮がある。

 フロリダ州では、デサントス知事が教育現場や公共施設に対して「マスク強制の禁止」を命令して、保守派から大歓迎され、マスク嫌いの人が全国から流入している。一方で、ニューヨークやカリフォルニアでは、律儀にマスクで自衛するアジア系が、「白いマスクは病原菌」だという思い込みから暴力のターゲットになるなど、メチャクチャな状況もある。

 大量に死者を出し、治安悪化と社会の分断という異常な状況を作り出している米国と比較すると、日本のコロナ対策というのは、ほぼ全分野において合格点だと言っていいだろう。

 ところが、社会に満ちている不透明感や先行き不安ということでは、日本は米国との比較で考えると、非常に厳しい状況がある。こうした不透明感、不安感が続くようだと、消費の低迷、出生率の低下など、日本の経済社会に対してマイナスに働き、中長期的に日本の国力を削いでいくであろう。

 問題はただ一つ、政府がしっかりと公式見解を語るということだ。見解は変わってもいい。新型コロナというのは、新しい疾病であり感染拡大に対して研究と対策が後追いとなっている中では、認識も対策も時事刻々と変わっていくのは当然だからだ。

 とにかく、その時点で最善と思われる「見解」を政府が語る、その上で少なくとも政府としてはその見解については、発信も、見解をうけた対策も一貫している、それだけである。それだけが徹底できれば、社会の安心感は全く違うし、欧米のように人々が「ポストコロナの消費活動」に進むことができるだろう。


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