2022年11月28日(月)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年5月22日

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唐木英明 (からき・ひであき)

東京大学名誉教授

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部教授、日本学術会議副会長、倉敷芸術科学大学学長などを経て現職。著書に『不安の構造 リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム新書)。

 夏を前に東京都の小池百合子知事はマスク着用のあり方について政府に統一見解を求めた。政府はようやく20日、屋外では、周りの人との距離が確保できなくても、会話をほとんどしない場合には着用の必要はないなどといった政府見解を発表した。

(gyro/gettyimages)

 欧米各国はマスク着用を罰則付きで義務化したが、現在は相次いで撤廃している。対照的に日本は政府の「お願い」だけにもかかわらず、ほぼ全員がマスクを着用している。そのような判断の根拠が「リスク最適化」、すなわちマスクをするリスクとしないリスクの比較だ。

 「夏のマスクは健康に悪いけれど、マスクをしないと白い目で見られる。どうしよう」そんな損得勘定で損害を一番少なくする判断を誰もが行なっている。

損害額と対策費を比べ、リスクを最適化

 あるリスクを小さくするリスク管理を行うと、別のリスクが発生する。例えば自動車の使用を規制すれば交通事故のリスクは小さくなるが、それが社会経済に及ぼすリスクは大きいことは容易に想像できる。両方のリスクの合計をもっとも小さくする規制の方法を考えるのがリスク最適化で、費用対効果の計算とかリスクのトレードオフともいう。

 リスク最適化は私たちが生きてゆく上で非常に重要な判断であり、全ての人がこれを直感的に行って行動を決めている。個人はそれでいいのだが、政府は国民への説明責任を負うので「対策は総理の直感で決めました」というわけにはいかない。そこで使うのがリスクの大きさを数字で表す確率論的リスク評価だ。

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