この問題に取り組んだのが、ハーバード大学医学部プラセボ研究・臨床応用プログラムの「オープンラベルプラセボ(OLP)」、すなわち患者にプラセボであることを伝えて、その効果を調べる試験だ 。試験の前に、患者が飲むのはプラセボだが、これには大きな効果があるという「前向き」な説明をしておく。すると、従来の治療では35%しか改善しなかった炎症性大腸炎の被験者が、OLPで65%改善し、慢性腰痛の被験者は従来の治療で9%の改善に対してOLPで60%改善、がんによる疲労感は従来の治療で5%の改善に対してOLPで39%改善した。
プラセボであることを知っていても充分に効果があるのだ。もちろんその背景にあるのは、被験者と医師の信頼関係だ。
OLPであれば倫理上の問題はなくなるのだが、それでもプラセボを医療に使うことにはまだ反対が多い。しかし、大事なことは、心理的な方法で症状を緩和できることが分かったことである。
これを実際に使っているのが慢性の痛みの治療だ。厚生労働省のHPに掲載されている「慢性疼痛治療ガイドライン」には慢性疼痛の治療法として行動療法やマインドフルネスなどの心理療法が強く推奨されている 。鎮痛剤では治らない慢性の痛みが、心理療法で治ることが公認されたのだ。
副反応に忍び込むノセボ効果
プラセボに有害作用が見られるのはワクチンだけではない。多くの試験でも見られ、これをノセボ効果と呼んでいる。
試験の前にはかならず副作用の説明をする。すると被験者は「副作用が起こるかもしれない」と不安になる。その結果、一部の被験者に実際に有害作用が起こるのだ。例えば前立腺肥大の治療を受ける前に、手術には性交渉の障害という副作用があることを説明した場合としない場合を比較すると、説明を受けた方が3倍も多く障害が現れている。
コロナワクチンの副反応に戻ると、その副反応情報は厚労省のホームページをはじめ多くの記載がある。だからほとんどの人が副反応についてよく知っていて、自分にも起こるだろうと不安に思っている。
そして実際に副反応が起こる。これこそがノセボ効果の条件なのだ。これはすべてのワクチンに共通する問題であり、副作用情報をどこまで患者に知らせるべきかという深刻な問題も提起している。
念のため筆者は「ノセボ効果だからワクチンの副作用ではない」と言っているのではないことは強調しておく。ワクチンを接種しなければノセボ効果も起こらないのだから、これは副反応である。ワクチンの直接の副反応と違うところは、ノセボ効果は心理的な手段で予防も治療もできることだ。
ノセボ効果を防ぐことができれば、コロナワクチンの副反応の全身症状は4分の1に減る。ノセボ効果を起こさないような副反応情報の伝え方の検討はすぐにでも始めるべきであろう。