2010年から約2年半にわたって焦点となってきた環太平洋経済連携協定(TPP)への日本の交渉参加が決まった。既に交渉を始めている参加11カ国が日本の参加を承認したことで、7月からの交渉参加に何とかぎりぎり間に合うことが確実になった。日本のTPPをめぐっては日本のメディアは政府の動きをにらみながら大報道を続けてきたが、これまでの報道ぶりをみていると正直、右往左往している印象が目立つ。端的に表現するならば、各国の動きに翻弄されすぎているのだ。
例えば典型的な例が、4月18日付の朝日新聞の一面だ。「TPP『全品目交渉を』 NZ、豪、カナダが条件」との見出しで米国以外も日本に交渉条件を出しているという内容だ。
一方で同じ日の読売新聞はカナダなどにまだ異論がありながらも、ケリー米国務長官が日本の7月からの参加を期待する旨の発言を米議会で表明したことを受けて、他の国も参加了承する方向で動くという記事となっている。
各国の言い分をどう解釈するか
結果はどうだったか。20日のインドネシアでの会合で、日本の参加は承認された。どちらの記事も間違いではないが、方向性の打ち出しは読売の方がやや親切ではないかという印象だ。局面や状況をどう見るのかという判断をしながら記事を書く重要性を示したものといえる。
TPPは通商交渉であり、交渉参加国の駆け引きの世界だ。各国が自国に有利な状況に持ち込むためにいわば都合のよいことを言いまくる場である。経済ジャーナリストに求められるのは、そこでの言い分をどう解釈してゆくか、ということである。
TPPの交渉に参加することは、情報を得られ、日本の意見表明も可能になり、自国に有利に運ぶこともできるようになる。
ただ、ようやく交渉参加国になれたからといって、手放しで喜んではいられない。日本はアメリカとの事前交渉の段階で、自動車の関税や保険分野で大きく譲歩させられている。この点は4月13日付の毎日新聞の社説のように「日本の農産物の関税について一定の配慮を認めされたとはいえ、交渉力に不安を残した」ときちんと指摘している新聞もあるが、同じ13日の読売の社説のように「したたかな戦略で交渉に当たってもらいたい」といった論調、産経新聞の「しっかりと攻めの交渉姿勢」を貫いてほしい」という主張では、正直突っ込みが甘い。