イランにとってもサドル師への対応は極めて微妙だ。同師は元々、イランのイラクに対する干渉に反対しているだけに、双方の関係は居心地の良いものではない。イランが今回の一連のイラクの政治騒乱に水面下でしたたかに介入したのは疑いないところだろう。
7月末には対外作戦を担う革命防衛隊コッズの幹部がバグダッドを訪問し、サドル師が連携を模索していたクルド人勢力に応じないよう圧力を掛け、イラン派政治家らにハッパを掛けたと言われている。このイランの介入でサドル師の多数派工作が失敗したとの見方が強い。
イランにとってイラクは重要な戦略のピース
イランの対外戦略の柱の1つはイラン、イラク、シリア、レバノンという地中海に至る〝三日月の弧〟と呼ばれる「シーア派ベルト」を強固なものにし、影響力を拡大することだ。これは米トランプ前政権によって暗殺された革命防衛隊のソレイマニ司令官が心血を注いだもので、イランの死活的な戦略だ。
イラクはこの戦略にとって欠かせないカードであり、イラクを宗教的に、政治的に、経済的に支配するというのがイランの目指すところだろう。欧米から厳しい制裁を受けるイランはイラクの海域で、イラン産石油をイラク産と混ぜて輸出するという手法を駆使しているといわれており、イランの石油輸出の25%がイラクを利用した制裁逃れと報じられている。