イラクでイスラム教シーア派の権力闘争が激化、全土で衝突が起きるなどこれまでに30人以上が死亡した。昨年の総選挙で第1党に躍進した愛国主義者サドル師派と既成勢力である親イラン派との対立だが、要は「石油輸出国機構(OPEC)第2位の生産を誇る石油収入の分捕り合戦」(専門家)だ。米国の思惑も見え隠れするイラクの混迷は深まる一方だ。
全土で続く政治衝突
政治的混迷の発端は昨年10月の総選挙に遡る。この選挙ではシーア派指導者のサドル師派が329議席のうち73議席を獲得して第1党になった。イランとの関係が深いマリキ元首相派は健闘したものの、イランの支援を受ける武装グループの政治勢力は50議席近くあった議席を大幅に減らし、後退した。
サドル師はイランや米国を含めた外国の干渉を嫌うナショナリストで、民衆の不満をうまく吸い上げることに長けたポピュリストでもある。実父は旧フセイン独裁政権に暗殺された最高位の聖職者「大アヤトラ」。カリスマ性があり同国で最も影響力のある人物と言える。同師は選挙後、イラン派を排除して、世俗派や少数派であるスンニ派、クルド人政党との連立政権樹立を模索した。
しかし、マリキ元首相らイラン派が舞台裏で猛烈な巻き返しを図り、サドル師の動きを阻止した。この水面下での政治的な駆け引きに半年以上もかかり、対立は高まっていった。
業を煮やしたサドル師は6月、勢力下にあった議員全員を辞職させる奇策に打って出た。ところが、イラン派は議員辞職で空席になった議席を自派の議員で繰り上げ当選させ、勢力を拡大した。