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2022年9月16日

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馬場未織 (ばば・みおり)

二拠点居住ライター

日本女子大学大学院修了後、建築設計事務所勤務を経て建築ライターに。2007年から平日は東京、週末は千葉県南房総市の里山の二地域で居住する。田舎暮らしなどをテーマに執筆活動を展開。南房総の里山と都市に暮らす人をつなぐNPO法人南房総リパブリックの理事長も務める。著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

 介護保険制度を中心にサービスを拡大しようとすると、こうした解き難い課題に突き当たるのが実情だ。

 例えば白髪をなびかせてまちを歩く高齢者を見た時、理容のサービスが受けられていないということは「他にもいろいろ困ったことがあるんじゃないかな」と心配になることがある。というのも、恥を忍んで告白すればかつて筆者の両親もそうだったからだ。家族が忙しくて美容院に連れて行く時間がないと、介護保険サービスを受けていても身だしなみは乱れていく。

 家族としては罪悪感がありつつ、「髪が伸びても命にはかかわらないことだから」と後回しにしてしまう。保険外サービスの選択肢として提示されても同様の判断をしていただろう。なぜならば、髪を切ることよりも切実な問題が手前に山積みされているからだ。

 そこでふと、疑問が起こる。分節された保険内外の介護サービスをすべて受けていれば、高齢者やその家族の不安は解消されるのだろうか? 保険外サービスである「理容のサービス」を受ければ髪はサッパリするからいい、「散歩の介助」をお願いすれば足が弱らなくなるからいい、という話なのだろうか?

 この問いに対し、介護保険制度から距離を置いたところからアプローチする取り組みがある。

重んじるのは〝行為〟よりも〝一緒にいる時間〟

 時間がゆっくりと流れる深い山あいの地域、島根県雲南市木次町。コミュニティナースカンパニーはこの地で生まれた。介護保険ではすくい切れない高齢者の暮らしの課題に寄り添いながら、『ひととつながり、まちを元気にする』事業を多角展開する。

 コミュニティナースの大きな特徴のひとつは、看護師などの国家資格や認定を必要としないことだ。「人が持っている力を引き出し、より健康で、より幸福な暮らしを支えること」という看護の本来の役割に立ち返り、その役割は看護師に限らず思い立った誰もが担える方がまちを元気にする、という考えである。2022年9月時点で講座修了生は600人を超え、サービス提供に従事している。

 事業のひとつに、同社の養成講座を受けた「ナース」が家に来る『ナスくる』がある。バイタルチェックなど国家資格が必要ない健康管理に加え、見守りや外出同伴なども行う利用者の自己負担のサービスである。これは一般的な混合介護(選択的介護)と同様の取り組みに見えるが、大きく違うのは、彼らが価値とするのは〝行為〟ではなく〝一緒にいる時間〟であるということだ。

 高齢者が行きたいところに同伴する『お出かけナスくる』は、利用者家族から「遠方の親が家に引きこもりがちで心配」「寂しい思いをしないように」と依頼されることが多いという。一緒に出掛けてくれる人がいることで高齢者の行動範囲が一気に広がる。

 そして、お茶を飲んだりお喋りをしたりと楽しい時間をともに過ごす。回を重ねれば信頼関係もつくられ、次は一緒にどこに行こうか、と未来を楽しみにするようになる。

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