インタビュアーの道傳は、日本の歴史のなかで、そうした「precarity」に襲われたときに参考になる事例がないかを尋ねる。
キャンベルが手にしたのは、「豊年教種(ほうねんおしえぐさ)」という書物である。天保の大飢饉で20万から30万人が餓死や疫病で亡くなった際の心構えを書いたものである。
「おかゆを(飢えた人に出す時は)恭(うやうや)しく」とある。
この言葉の意味について、キャンベルは次のように説く。
「困っているのは、気候と天災のせいに過ぎない。明日はわがことである。人知れず、徳を積む、陰徳をつむこと大切であることを書いている。公ではなく、民によるセーフティネットである」と。
3人が考える日本社会のこれから
ロングインタビューの最後に、登場した3人がそれぞれ、日本社会のこれからについて語っている。
政治学者の中島岳志は、「われわれは失敗する。殻の中に閉じこもる。弱くなった自分を認める社会でありたい」
日本文学研究者のロバート・キャンベルは、「言葉や映像では、貧困や戦争を防げない。しかし、言葉をなくした民主主義社会ではなく、言葉飛び交う社会を願う」
作家の高村薫は、「いまの日本で希望の芽があるかといえば、なかなか難しい。よりよく生きるしかない。私は新聞を読む。小さな記事を読む。自分の生活とまったく関係のないことに関心を持つ」