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田部康喜のTV読本

2022年7月21日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 7月8日午前11時半ごろ、奈良市内の近鉄大和西大寺駅前。山上徹也容疑者によって、参院選の候補者の応援演説をしていた、安倍晋三元首相が容疑者の手製の銃器によって、暗殺された。列島に投じた波紋はいまも広がっている。

安倍元首相の事件をどう伝えていくのか、今後のジャーナリズムが問われる(Abaca/アフロ)

 NHKによる事件の第1報の映像と報道は、今後長らく記録されることだろう。取材者である、女性記者の冷静な音声でそれは始まる。「安倍元首相が撃たれた模様です」。そして、カメラは駆け寄るようにして、山上容疑者が捜査官たちによって地面に組み敷かれる。

 新聞記者をしていた、筆者の経験から、大事件が起きた瞬間に周囲の音が消える。それは、事件に集中しているからか。いや、何も聞こえないと思い返す。ノーベル文学賞受賞者である、作家の川端康成がいうがごとく「死者の眼」のように事態を見据えないと、報道する言葉が紡ぎだされない。

事件3日後の背景に迫るドキュメンタリー

 取材と原稿を送るなかで、喧騒が襲ってくる。

 1960年10月12日、日比谷会堂において、次期衆議院選を直前に控えた、党首演説会。社会党委員長の浅沼稲次郎が少年によって、刺殺された。今回の事件と通底すると意識する人々は多い。それは、ノンフィクション作家・沢木耕太郎が犯人の少年に焦点を当てた作品『テロルの決算』(78年)がいまも、強烈な印象を残しているからだ。

 この事件の映像もまた、報道写真の歴史に残る。浅沼委員長を少年が脇差用の抜き身によって、刺殺した瞬間の写真である。毎日新聞の長尾靖カメラマンが撮影した。日本初のピューリツァー賞を受賞した。

 会場に遅れて到着した、長尾はたまたま演台を正面にとらえる席についたという。しかし、それは偶然ではない。特ダネとは、必然である。

 「クローズアップ現代」(7月11日)は、安倍元首相の暗殺からわずか3日後に通常の番組のラインナップを飛ばして、冷静かつ、安易な断定に踏み込まずに、事件の背景に迫った。メディアのその後の報道の方向性の先駆となったといえるだろう。

 取材の焦点は、宗教団体の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)である。山上容疑者の供述はこうだ。

 「特定の宗教団体に恨みがあり、安倍元首相がこの団体と近しい関係にあると思い狙った」

 「母親が団体にのめり込み、多額の寄付をするなどして家庭生活がめちゃくちゃになった」

 山上容疑者の父親は建設会社を経営していた。そのあとを継いだ、母親が世界平和統一家庭連合に入信、2002年に破産した。母親の教団に対する巨額の寄付が破綻の原因ではないかと推察されている。

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