話し手・先﨑彰容
聞き手/構成・編集部(大城慶吾、野川隆輝)
編集部(以下、──)安倍晋三元首相が銃撃され死亡する事件は、国内のみならず世界にも衝撃を与えた。事件をどう受け止めているか。
先﨑 まず言えることは、今回の事件は、一国の権力の座にいた人の暗殺事件で、歴史の教科書にも将来載るであろう出来事であり、時代全体の雰囲気を大きく変える可能性があるということだ。
在任日数からも明らかだが、間違いなく一時代を築いた人で、安倍元首相を批判することで言論が成り立ったこともあった。人物像については、評価の明暗がくっきりと分かれるが、私は良くも悪くもカリスマ性があり、ひとつの価値基準をつくった「辞書」のような存在であったと考えている。また、日本にとって〝軸〟となる人であり、居ることが当たり前という存在だった。そのため、居なくなることで不安を覚えた人も少なくないのではないか。
──事件が発生した社会的背景をどのように捉えているか。
先﨑 近年の時代の流れを整理しながら、どうしてこのようなことが起こったのかを考えたい。
この数十年間、日本社会は長期的・慢性的な不況に陥っており、多くの国民は「給料が上がらない」「生活が苦しい」などの不平不満を感じていた。そこに到来したのがコロナ禍だった。度重なる外出自粛要請によって、人々の接触機会が奪われた。さらに、感染者数・重症者数・死亡者数を連呼し、恐怖を煽るかのような報道を毎日のように見せられた。いわば、国民は、「日本国という一室」に閉じ込められ、逃げ場のない中で、日々「感染者数パワハラ」を受け続ける状態が続いた。
この状況に追い打ちをかけるように今年2月にはロシア・ウクライナ戦争が勃発した。これにより、日本人が長年考えたくないものとして目を背けてきた「戦争によって人を殺める」といったことがリアルな形で突き付けられ、さらなる不安にかられると同時に、戦争というものが現実味を帯びた危機として、眼前に広がったのである。
──歴史という時間軸の中で、現代社会と類似している時代はあるのか。
先﨑 現代は、……
◇◆◇ この続きを読む(有料) ◇◆◇