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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 中島がいまもっとも危惧しいているのは、1920から30年のテロとクーデターの時代の風潮と現代が似ているのではないか、という視点である。

 1921年9月、安田財閥を率いた、安田善次郎が朝日平吾(当時31歳)によって、刺殺された。朝日は、善次郎に対して、労働者の施設づくりを懇願したが、受け入れられず殺害のうえ、自殺を図った。

 メディアは当初、テロの主犯である朝日を批判した。ところが、善次郎の相続が発生すると、巨額な遺産によって、善次郎は「守銭奴」という批判を浴びるようになる。

 同年11月、首相の原敬を刺殺した、鉄道労働者の中岡艮一(なかおか・こんいち)は、そうした善次郎批判の世論に背中を押された青年だった。職場の上司が「(善次郎を刺殺した)朝日のような人物になれ」といったという。

 テロの時代は、社会に不安を大きくする。こうしたなかで、「治安維持」の権力が強まった、歴史に対しても、中島は警鐘を鳴らす。

 「社会は、不安から踏み込んだ治安維持の強化を願う。治安維持法(1925年制定)によって、権力批判がしにくくなる。右も左の団体も検挙される。1920から30年にかけて、誰もなにもいえなくなった」と。

現代が持つ漠然とした不安感

 日本文学研究者のロバート・キャンベルは、今回のテロ事件を「社会のメルクマール」つまり社会が大きく転換する出来事であると、考えている。

 キャンベルは、安倍元首相の死について、自分自身が6歳の時の63年に起きたケネディ大統領の暗殺、68年のキング牧師の暗殺、そして、同年のロバート・ケネディの暗殺と同様の衝撃を受けたと、語っている。米国に住む親戚、類縁、友人たちからのメールによる問い合わせは、安倍元首相に対するテロのニュースが世界をかけめぐった直後から、かなりの量が届いたという。

 キャンベルは、60年代と現代が決定的に異なるのは、メディアの違いであることを強調する。チャット、SNSなどである。

 最近の事例として、昨年1月に米ワシントンで起きた、国会議事堂襲撃事件をあげる。「トランプの支持者たちが、移民や黒人が自分たちのチャンスを奪っていると考えた。アメリカは不平等だと。あの襲撃事件に参加したのは、どこにでもいる、隣の住人の可能性もある」

 キャンベルは、安倍元首相を銃撃した容疑者・山上徹也の過去2年半にわたる、計約1300件のツイッターを分析している。

 「(山上容疑者は)被害者であり、加害者は統一教会だと。学歴や恋人までそのために奪われたとつぶやいている。彼のフェミニズムや在日朝鮮人などに対するツイッターをみてみると、誰よりも自分が弱者であると考えている。自分が小さくなって、いためつけられている。自分を傷つけるトゲに満ちているという感覚である」

 キャンベルによれば、こうした感情は、「precarity」と呼ぶ。漠然とした不安感である。予測不能な病原菌やミサイル、地震が起きるのではないか、といった不安につねにさらされている。

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