2024年7月16日(火)

ザ・ジャパニーズ3.0(昭和、平成、令和) ~今の日本人に必要なアップデート~

2022年9月28日

外とつながることでイノベーションを絶えず起こしていく

 私がここで強く思うのは、日系企業、特に大企業における自前主義の陥弄である。第8回の副業に関するコラムでも書いたのだが、大企業が大企業である所以は規模の大きさとそれに呼応する人材の多彩さである。大企業はその業界の勝ち組であり、ノウハウや新しいビジネスのアイディアを内部に囲い込みこそすれ、外部との連携は基本的に行わないのが常だからである。

 稼ぐ力の源泉は企業の有する実資産・金融資産であり、それを表象する企業名やブランドである。そこにやりがいと経済的な成功を求める若者が集まり、そのような若者を輩出する有名大学とそこに続く小中高の受験ロードがあった。これが高度成長時代以降、今日まで続く企業と人材のエコシステムである。

 しかしDX・GX時代における稼ぐ力の根源はイノベーションである。そしてそのイノベーションは、人材の生み出す知によって生み出される。知は無形資産であり、既存の実資産ではない。収益を上げるための裏付け資産の質が根本的に変わっているのである。

 実は日本は自前主義に起因する「敗戦」を一度経験している。それは半導体産業である。1980年代に日本の半導体は世界を席巻した。しかし90年代に入ると、メモリ(DRAM)からロジック(CPU)へのシフトが起こり、そして高度化するロジックの設計・製造は、オープン・ネットワークを前提としたファブレス(設計専門企業)とファウンドリ(ウェハプロセス受託製造企業)との分業に移行していった。

 オープン化と分業化は半導体業界の大きな趨勢であったが、自前主義かつ設計・製造の一騎通貫にこだわった日本企業は、世界とつながるオープンイノベーションのエコシステムや国際アライアンスを築くことができず、巨額の研究開発費用を投じ続けたものの結局は衰退してしまったのである。

 DX・GXがもたらす変化は全ての産業に及ぶものであり、かつて半導体産業に起こった変化とは比較にならない大きさである。DX進化のスピードはますます速まるだろう。またGXは地球存続のための壮大なミッションであり、人類の全叡智を結集して取り組む必要がある。このようなDX・GXの文脈の中でイノベーションを起こしていく必要があるのだ。

 そしてイノベーションは往々にして突拍子もないところから起こる。その観点からすると、自社のサイロに閉じこもり、過去の経験にのみ基づいて育成されてきた人材にイノベーションを期待してもなかなか難しいものがある。黒船的な外部知が絶対的に必要なのである。

 内向きではなく、外とつながることでイノベーションを絶えず起こしていく。米国のアラムナイ・ネットワークは過去からそのような場として機能してきたと思われる。その積み上げによって、上場企業のPBR水準やスタートアップ企業の絶対数で日本に大きな差をつけていると考えれば合点がいく。

 圧倒的に差をつけられている日本であるが、歩みを止めてはいけない。企業アラムナイ・ネットワークの取り組みは小さな一歩であろう。しかし次世代に競争力をもつ企業と人材のエコシステムを創出する可能性をもつものとして期待したいし、日本企業が内向きのサイロ経営から変質(トランスフォーム)するきっかけになれば良いと思う。

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