2024年7月16日(火)

インドから見た世界のリアル

2022年9月29日

 これが、国内における国葬の議論に影響したと考えられる。7月に安倍元首相が暗殺されて以降、「平和主義」を支持する人々は、国葬に反対するキャンペーンを全力で張った。例えば、統一教会の問題は、実際には与党だけでなく野党も関係を持っていたのに、国葬反対キャンペーンの人々は与党との関係だけを取り上げて反対した。

 国葬への費用が高いという批判も同じだ。実際には、国葬ではなく、別の葬儀形態をとったとしても、費用が一定程度かかることは、あまり議論されなかったようにみえる。つまり、国葬に反対していた人々にとっては、統一教会との関係や、かかる予算は、それほど重要ではなかったのである。国葬反対派にとって重要なのは、安倍元首相の「平和主義」を転換させようという構想そのものを、つぶすことだったとみられる。

 7月の暗殺から9月の国葬まで2カ月半あったことは、国葬反対キャンペーンに十分な時間を与えた。こういった議論と関係したくない人々から見れば、こういった争いそのものに巻き込まれるのに嫌気がさした。それで、多額の費用をかけてまで、国葬をやるべきなのか、疑問視し始めたのである。

初めて世界史を変えた日本人

 このように、日本で国葬の是非が分かれたとしても、実際には、安倍元首相の上げた業績は、明らかに国葬に値する。それを理解するには、日本の歴史について考えなくてはならない。

 そもそも、過去2000年の間、日本人で、世界の歴史を変えた人がいるだろうか。科学技術分野では、素晴らしい成果もあるかもしれない。しかし、世界政治を動かしたといえる日本人はほとんどいない。源頼朝であろうと、徳川家康であろうと、その成果は島の中にとどまり、世界政治を動かしたとは言えないのである。

 戦後、国葬に値する政治家として、吉田茂の名前が挙がる。たしかに吉田茂は偉大な政治家で、第2次世界大戦で破壊された日本の基盤を再建した点で、大変重要な政治家である。しかし、それは日本にとって、だろう。

 吉田茂は、世界の歴史を変えた人物というべきだろうか。吉田茂が、米国の軍事戦略に使われる戦略概念をつくり、それに基づいて、大国である中国と世界の覇権を争うに至ったのだろうか。そうではないだろう。日本にとっては国葬に値する大変重要な人物だが、世界の歴史を動かしたとまでは言えない。


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