安倍晋三元首相の国葬が行われた。7月に安倍元首相が暗殺されて以来、国葬の是非をめぐって議論が行われ、国葬支持が徐々に後退、世論調査では、半分以上の国民が国葬に反対していることになっているものもある。しかし、実際に国葬が行われて、その内容を精査してみる限り、この国葬は、国益にかなったものとみることができる。それは次の理由からである。
そもそもなぜ意見が割れたのか
まず、安倍元首相が暗殺されて以降の経緯をたどってみると、なぜ安倍元首相の国葬への反対派がこれほど増えたのか、理解できる側面がある。それは安倍元首相の功績は挑戦的なものが多く、国際的にも、国内的にも、そもそも賛否が分かれるものだからだ。
安倍元首相の最も大きな成果は、外交安全保障であったと考えられる。2007年のインド国会での演説で、後の「インド太平洋」と、「クアッド」にあたる日米豪印の戦略的な協力を提唱した。これは特に、対中国戦略を考える上で斬新な考え方であった。
「インド太平洋」は、これまで使っていた「アジア太平洋」と違い、インドが加わっている。インドが加わると、中国と領土問題を抱えている国がすべて含まれるようになる。
インド太平洋で影響力のある国々を挙げると、日米豪印と中国だ。中国だけ除けば「クアッド」になる。つまり、この2つの戦略構想は、共に、対中国戦略を描いたものと言っていい。この戦略は実際に、米豪印3カ国が受け入れることで、対中戦略の要の位置を占めるようになったのである。
ここから考えれば、安倍元首相の功績は、敵と味方がはっきり分かれるものであった。今回の国葬に出席した各国の代表を見てみて興味深いのは、米豪印は、ハイレベルの高官を送ってきていることだ。
米国はハリス副大統領、豪州はアルバニ―ジー首相に加え、直近3人の元首相。インドはモディ首相が参加したのである。一方で、中国が送ってきた代表は低級で、その差は歴然としていた。安倍元首相の功績を評価する側と評価しない側の差である。
さらに、国内政策から見ても、安倍元首相の功績は、評価が分かれる。なぜなら、この「インド太平洋」と「クアッド」の特徴は、日本が、対中国戦略、特に安全保障面で積極的に貢献することを前提としていたからだ。
例えば、もし日米豪印が協力して、中国とのミリタリーバランスを維持するとしたら、何ができるだろうか。もし日米豪印が安全保障に積極的で、中国に対する攻撃力を持っていたら、中国は、日本向け、インド向け、というように、軍事費の使い道を分散させざるを得なくなるだろう。そういった意味で、「クアッド」は、対中国戦略に大きく貢献する可能性がある。
でも、もし日本が安全保障に積極的ではなく、中国からみて無視できるような存在であるならば、「クアッド」は機能しない。つまり、安倍元首相が「インド太平洋」「クアッド」を提唱するのであれば、それは、日本が安全保障に積極的でなければならない。戦後の「平和主義」のままでは、米豪印にとって、助けにならないのである。