このようにしてみると、過去2000年に、日本から世界はこうあるべきだという戦略概念を紹介し、実際に受け入れさせた日本人はいない。日本発を実際に体現した初めての政治家は、安倍元首相である。それは「インド太平洋」「クアッド」を提唱し、各国を説得することでなされた。
米中対立がエスカレートする中、安倍元首相の世界史への貢献は、より重視されていくだろう。だとすれば、安倍元首相を、日本人の手で、国葬にするのは当然だ。
課題はこれから
ただ、問題はこれからである。今後、安倍元首相なしに「インド太平洋」「クアッド」を継続し、発展させていかなければならない。そこに大きな不安がある。
今回の国葬の各国からの出席者を見てみると、ある傾向が見て取れる。主要7カ国(G7)をはじめ、ヨーロッパ諸国の出席者は、高位ではあるが、トップランクではない(例外はEUのミシェル大統領)。安倍元首相のスピーチライターだった谷口智彦氏は、Boei Cafeのインタビューの中で、ヨーロッパ諸国にインド太平洋を理解させるのに、時間がかかったことを指摘している。地理的に離れたヨーロッパは、インド太平洋に対する関心がやはり低めである。
一方で、インド太平洋各国からは、トップランクの高官が来ている。豪州やインド以外にも、ベトナム、シンガポール、インドネシア、フィリピン、カンボジア、モンゴル、スリランカ、パプアニューギニア、パラオ、トンガ、バーレーン、ヨルダン、カタール 、タンザニア、コモロ諸島などは、トップランクの高官を派遣してきた。つまり、安倍元首相の功績は、どちらかといえば、ヨーロッパよりは、インド太平洋諸国から評価されている。
今、ロシアのウクライナ侵攻によって、日本は、G7諸国、特にヨーロッパ諸国と歩調を合わせている。そのことそのものは、いい政策だ。だが、もし日本が、インド太平洋各国への配慮を欠けば、安倍元首相の成果は、無くなっていくだろう。
国葬をめぐって各社の報道を見ていても、G7諸国からの出席者について報じられる一方で、他の国からの出席者への関心が低いように見える。安倍元首相の功績を活かしていくには、日本は、「地球儀を俯瞰」し、もっとインド太平洋に目を向けるべきなのである。