2024年4月20日(土)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年10月10日

 トウモロコシの振興をするなら「飼料穀物」としてではなく、草などによって作られる粗飼料や飼料用イネ(WCS)といった「飼料作物」を畜産地帯の畑で栽培するのが望ましい。いずれにせよ、農地の有効利用という観点から見れば、トウモロコシではない。日本ならではの解は、歴史を振り返れば、見えてくる。

水田裏の二毛作で生産拡大していた麦

 過去の耕地利用率を見ると、麦生産が盛んだった1960年ごろは135%であった。小麦、大麦ともに200万トンの生産があったと記憶する。しかしながら、この生産量はだんだんと減り、一時期、「麦は安楽死」とまで言われるに至っていた。

 コメの供給過剰と価格低下、生産調整を背景に、生産者や生産団体が高い価格での販売を求めて良品質米へ転換、早期出荷を図るために、田植え・収穫の時期を繰り上げた。また、輸入麦の政府売渡価格の抑制などから、市場としても農作業のスケジュールとしても国産麦は衰退の道をたどってしまった。したがって、麦を復活する、増産するには、価格関係の是正と「田植えの時期を麦収穫の後にする水田の有効利用」が不可欠である。

 良質米競争は、すでに消耗戦に入った。コメは十分においしくなっており、これから必要なのはリーズナブルな価格の業務用米の安定供給であろう。キーワードは、「田植えを遅らせて、麦秋の復活を」である。そうすれば、畜産への寄与の面でも「冬作物で作期も小麦より2週間程度短い(飼料用)大麦の振興」も選択肢に入ってくるのではないか。

 水田をどう使っていくかが重要課題であり、畑作地帯での子実用トウモロコシのモデル事例が全国に広がるには長い時間が必要で、十分に検討してかかるべきだろう。

実はコメとともに作られてきた大豆

 農地の過半を占める水田については、年間3000億円を超える多額の助成金の下で、「水田フル活用政策等」が実施されている。このような状況なのであるが、重要作物の大豆は年間約21万トンと、生産努力目標の達成度合いが7割にとどまり、まだまだ増産の余地があるとの指摘もある(8月27日の日本農業新聞)。

 この数字の達成率は一見悪そうに見えるが、これまでの経緯からすれば、善戦ではないだろうか。生産努力目標34万トンは「食品用の大豆」が対象だが、大豆はコメと作期を同じくする表作作物である。明治以来の収穫量のピークは1920年の約55万トン、コメの生産調整・稲作転換が始まるころまでが16万~17万トンだから、笛や太鼓での振興策にせよ、約21万トンの生産は善戦と言えなくもない。

 長い歴史の下で、大豆の栽培場所は「水田の畦畔(けいはん)で」だったことを思い出したい。畦畔での大豆とは、水田の用水が外にもれないように囲んで作った盛土の部分、いわゆる「あぜ」での栽培である。

 江戸時代には、「畦畔に年貢なし」と、いわば非課税扱いで、①農業労働者のたんぱく質栄養補給、②畦畔の耐久性強化、③肥料はほぼいらない、④適度な水分も供給される(過湿はダメ)、そして、⑤稲作と同時期の栽培で作業は共通という特徴を持っていた。

 ひょっとして、高い助成金をつけた転作大豆は、畦畔の大豆が田本地(でんほんじ)の大豆への置き代わりになっているのではなかろうか。新潟県のエダマメ(野菜扱い)の収穫量は6000トン、大豆(穀類)は1万トンである。そして、エダマメの作付面積が全国一という数字は、湿田が多く畦畔率が高いこと(全国平均4%、新潟6%)が影響しているかも知れない。


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