2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年10月21日

 具体的には、ボルソナーロ支持者が高等選挙裁判所や関係者を襲撃し、或いは街頭で暴力的抗議活動を行うことにより、国内に混乱状態が生じ、大統領として国家緊急事態を宣言して、選挙結果をペンディングにして政権移行手続きを無期延期するといった措置を宣言することが考えられよう。重要なのは、警察や軍がかかる事態の鎮静化のために正常に機能するのか、あるいは傍観するのか、であろう。

ブラジル1国の問題に限らず

 自分に不利な選挙結果が出れば、それは不正があったためであると主張し、そのための布石として根拠なく電子投票の欠陥を主張し、開票手続に軍の介入を求める等、これまでのボルソナーロのやり方は目に余るものがある。反人権的な暴言やアマゾン熱帯雨林破壊などもあり、このような人物が未だに国内で40%以上の支持を得ていること自体が信じ難いが、この選挙での有権者の関心事項は、まず経済政策であり、貧困や失業の問題である。

 ルーラの持つネガティブな側面もあり民主主義を守るか否かが焦点になってはおらず、経済政策や社会的価値観における国内の両極化を基礎にそれなりの支持基盤を有していると見られる。

 ブラジル国民が良識ある判断を下し、国内の高等選挙裁判所に対する圧倒的な信頼や、米国を始めとする国際社会や国際機関の選挙結果の支持、国際的な選挙監視団の声明といった国際的圧力により、ボルソナーロが暴走を思い留まることを期待したいが、いずれにせよ、円満な政権交代は期待し難いであろう。

 民主的な選挙結果に従うか否かの問題はブラジル1国の問題に止まらず、民主主義的制度を弱めて自らの政権の維持を図ろうとしているラテンアメリカその他地域の権威主義的ポピュリスト指導者を更にエンカレッジするか、逆に警告を与えるかの影響を持つものといえる。特に、トランプの明示的な支持をSNSで発信しているボルソナーロの敗北はトランプの敗北ともなり、選挙システムを否定してその結果を覆す手法を許さない前例となることを期待したい。

   
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