2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2022年10月18日

トランプとプーチン・ファクター

 だが、減産決定の背景は経済的な理由からだけではあるまい。家族ぐるみの付き合いをしていたトランプ前大統領と違い、バイデン氏は民主主義や人権など理念を重視する政治家であり、反体制派の殺害や誘拐、人権抑圧など独裁的な手法のムハンマド皇太子とは元々肌が合わないのは衆目の一致するところ。

 米国内では、サウジが米国の説得を無視して減産を決めた背景には、ガソリン価格を高止まりさせてバイデン政権の評判を落とし、11月8日の中間選挙で民主党を敗北させたかったのではないか、という疑念が強い。その思惑の行き着く先は24年の米国大統領選で、嫌いなバイデン氏に代わってトランプ氏を復活当選させようとする狙い、との見方だ。

 もう1つ忘れてはならないのはロシアのプーチン大統領への皇太子の親近感だろう。18年に「皇太子の命令で殺害」(米情報機関報告書)されたカショギ氏は生前、米ワシントン・ポストへのコラムで「ムハンマドはプーチンのように振る舞っている」と書いたが、これに同調する識者は多い。

 プーチン氏の反体制派に対する弾圧や粛清の独裁者のイメージが皇太子と重なるからだ。中東専門誌などによると、カショギ氏殺害事件はプーチン政権による「スパイ毒殺事件」が手本になったのだという。事件は06年、ロンドンで元ソ連国家保安委員会(KGB)の情報部員が毒殺されたもので、プーチン氏が命じたものとされている。皇太子はこれをヒントにカショギ事件を起こしたというのだ。

 2つの事件の関連性は明らかではないが、ムハンマド皇太子がプーチン氏に親近感を抱いているとの情報や証言はいくつもある。サウジが減産を進めたのはプーチン氏支援だったか否かは別にして、サウジに対する米国の不信感にはこうした背景があることを知るのは重要だ。

 歴史を振り返ってみると、米国とサウジは戦後一貫して「サウジが世界に石油を安定供給し、その見返りに米国が安全を保障する」という構図で推移してきた。条約や協定はなく、その意味で真の同盟関係ではなかった。今回の対立は両国関係が「お互いを利用する都合の良いものだった」(米紙)ことがあらためて鮮明になった点に意味があるのかもしれない。

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