「党から与えられた任務を遂行することができなくなった。保守党の党首を断念する決断を、チャールズ三世国王に電話で伝えた」
リズ・トラス首相(当時)は10月20日、首相官邸前でそう語り、与党保守党の党首を辞任した。45日間という英国史上最短の在任期間だった。国債を増発させる減税政策に突き進んだ彼女の行動が、今回の辞任劇につながった。通貨ポンドは下落し、国債金利が上昇したことで、金融市場は大混乱した。
先が見えない国際情勢の中、経済政策で失敗
エリザベス女王の国葬を終えた頃から、本格的に取り組んだ首相職。そこで打ち出したのが、約450億ポンド(約7兆6000億円)の、大型減税案だった。当初、予定されていた19〜25%への法人税引き上げの停止、所得税率の引き下げなどが減税案には含まれていた。
その後、主要な投資家による英国株の売却といった状況に発展し、国民への生活難が懸念される形へとつながった。
オックスフォード・ブルックス・ビジネス・スクールのプリタム・シン名誉教授は、トラス前首相が退陣を迫られた原因のひとつに「独断的なイデオロギー」を挙げている。インド紙『トリビューン』(10月24日付)に寄せたコラムに書いている。
「彼女の市場主義と民営化のイデオロギーが、現在の英国の経済と社会、つまり生き残りをかけて国の支援を求める家族や小規模ビジネス経営者の考えと合致していなかった」
また、トラス氏に票を投じた保守党の有権者からも支持を失ったとことから、「トラス氏が首相を継続すれば、次の総選挙で負けてしまうと、保守党議員たちが感じたからだ」とも指摘している。この事態を回避させることが、早期辞任という結果につながったと説明した。
野党・労働党のキア・スターマー党首は、国民の生活を劇的に悪化させた保守党を非難。政権交代の必要性を訴えていた。
「この数年間で、保守党は記録的な高税率を実施し、この国の制度を破壊し、国民に生活費の危機をもたらした。国民は住宅ローンで月500ポンドの追加負担を強いられている。保守党が与えた打撃を回復させるには、あと何年かかるか分からない」