2024年7月23日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年11月4日

 さらに、田舎の状況についての情報が無いので断言出来ないもののデモの映像は全て都市部で撮影されており、恐らく田舎ではデモが起きていないと思われることからイスラム革命体制の地盤である田舎は、依然としてイスラム革命体制に忠誠を誓っていると想像される。79年にイランでイスラム革命が成功したのは、当時のパーレヴィ朝が、白色革命と呼ばれる工業化、農地改革等の強引に近代化(世俗化・西欧化)を進めて宗教界を怒らせたことが大きな理由の一つだと言われている。

遠のく米国との核合意の再開

 白色革命は、イスラム教の信仰を弱めるだけでなく、大土地所有者でもあった宗教界の既得権も脅かしたのであり、宗教界はパーレヴィ朝を看過出来なかった。そして、田舎に行けば行くほど、人々は信心深くなる傾向があり、宗教指導者の影響力は強い。

 こうしてパーレヴィ朝に対する抗議は、宗教界を敵に回したために都市部だけでは無く、宗教の影響が強い田舎でも広まったと考えられる。他方、今回のデモが都市部に止まっているとすれば、それは、イスラム革命体制で特権を享受している宗教界がイスラム革命体制を打倒して世俗化しようとする訳が無く、他方、デモ隊側は田舎にまでアウトリーチする術が無いからではないか。

 最後に、今回のデモで、バイデン大統領自らがデモ隊を支持する発言をしている(来月に中間選挙を控える同大統領としては政治的に止むを得なかったのだろう)が、これにより、イラン核合意の再開は、ますます遠のいたと考えるべきである。しかし、既にイランは、濃度60%で核爆弾1個分の濃縮ウランを備蓄し、時間が経てば経つほど、備蓄量は増えていく。

 米国は一体、どうやってイランの核武装を阻止するつもりなのであろうか。イラン側は、ハメネイ最高指導者が、ファトワ(権威ある聖職者による決定)で核武装を禁止していると主張しているが、どう考えても核兵器にしか使い道の無い60%もの高濃度の濃縮ウランを大量に備蓄しようとし、執拗に核爆弾製造に必要な金属ウランの製造実験に対するIAEAの調査を阻止しようとする態度には疑いを持たざるを得ない。

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