北澤氏が見た
途上国の実態
引退後にJICAの「オフィシャルサポーター」として活動することになった。サポーターとしての役割は政府開発援助(ODA)の一環で行う隊員たちの活動を視察し、日本の税金の使途を国民に伝えることだった。しかし、ただ視察するだけでは惜しいので、現地で社会貢献活動をさせてほしいとお願いした。それ以降、アジアやアフリカ、中南米の数十カ国に足を運び、現地でサッカー教室を開催しながら、途上国の実態を見てきた。
例えば、カンボジアでは日本人教師が派遣されている学校を視察し、国力を高めるには若い技術者の育成が不可欠であると感じた。セネガルでは、医療現場を視察し乳児の死亡率を低下させるために母親をどう教育すべきかについて頭を悩ませた。パラグアイでは、サッカー教室を行おうとすると、グラウンドに入れてもらえないという経験もした。現地のコーチから「自分の仕事が奪われるのではないか」と警戒され、彼らの「職を守ることへのプライド」を感じた。
スポーツの力で
途上国を後押しできる
どの国でも印象的な出会いや出来事があったが、現地での活動を通じて、私自身サッカーやスポーツの価値を再認識した。
アフリカの国では、「HIVの検診をする」と告知しても誰も集まらない。しかし、サッカー教室を実施し〝ついで〟にHIVの検査の受診を案内すると、多くの人がサッカー教室に参加した後に検診を受けて帰っていった。サッカーを手段にすればたくさんの人が集まり、現地に受け入れてもらえ、正しい知識を授けることができる。JICAも私もサッカーがそこまで大きな役割を果たせるとは考えていなかった。