サッカーの潮流には
政治が関係する?
――93年の「ドーハの悲劇」の舞台・カタールでワールドカップ(W杯)が開催される。この30年をどう分析するか。
河治 ここ数十年のサッカーの潮流を見ると、「走れること」「相手とコンタクトできること」など、個のアスリート能力が強く求められるようになった。また、ネット配信が普及し情報が拡散されるようになると、強いチームの戦術がトレンドとして世界中に浸透し、良くも悪くも各国の戦術のカラーが見えにくくなってきている。
W杯というくくりで分析すると、強豪国と呼ばれる国の変化が印象的だ。この背景には政治的な影響もあるかもしれない。
例えば、ベルギーの躍進が著しい一方、イタリアは2021年の欧州選手権では優勝したものの、W杯は2大会連続で出場を逃すなど近年成績が安定しない。鍵となっているのは移民選手の扱い方である。前回大会で優勝したフランスにしても、もはや移民2世、3世の選手抜きには考えられない。個のアスリート能力の重要性が増す中で、身体能力の高いアフリカ系移民の選手を擁する国がいい成績を残すようになった。
高橋 この30年はグローバリゼーションによりサッカー界も発展したといえる。ソ連が崩壊し、中国も事実上の資本主義化の道を選び、ヒト・モノ・カネの流れが一つになっていった。今では世界最高峰となったイングランド「プレミアリーグ」はロシア人の富豪がクラブを買収することでロシアンマネーが還流し、発展した。
移民とグローバリゼーションも切り離せない。アスリート能力の高いサッカー選手がプレミアリーグに集まり、そこで戦術も発展してきた。また、比較的平和な時代が続く中で、人々はエンタメを渇望した。サッカーにテレビマネーが流れネット配信も発達し、コンテンツとしての魅力が高まっている。サッカーの潮流にも根っこの部分では政治が関わっているのだと思う。
EUの発足が
欧州サッカーを活性化させる
河治 1993年に欧州連合(EU)が発足したことも大きい。もともとイタリア1部リーグ「セリエA」では自国の代表チームを強化するという名目で、外国人選手を完全に締め出していた時期があった。しかし、EUが発足し、欧州の主要リーグでEU加盟国内選手の外国人枠が撤廃され、今では域内で選手が自由に移籍できるようになっている。こうして欧州各国のリーグが活性化した。政治とサッカーの関わりは深いといえるだろう。
高橋 その意味では、中国は経済面ではグローバリゼーションの流れに乗ったにもかかわらず、サッカーでは一向に代表チームが強くならないのは興味深い現象かもしれない。
河治 中国を見ていると、あまりにもトップダウンすぎると感じてしまう。トップ主導でブラジルに選手を大量に留学させたがほとんどが失敗に終わり、大きな資本を投入して国内クラブの強化にいそしんでも攻撃的なポジションの外国人選手ばかりを補強した結果、中国人の「エース」が育たなくなってしまった。挙げ句の果てには、クラブ自体が破綻してしまっているのが現状だ。
これだけ華僑が世界に出ていっているのに、なぜか中国人のサッカー選手は海外に出て行けない。中国人は身体能力が高いはずなのにそれがなかなか発揮できていない。サッカーではトップダウンの弊害が出ているのかもしれない。