2024年11月22日(金)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年11月23日

価値を高めるために必要な
最大市場を見据える目

 地域のクラブとして定着してきた一方で、次の30年に向けては、成長戦略が必要になる。つまり、コンテンツとしての価値を高めるための「変化」だ。

 私がJリーグの専務理事として行ったのが、クラブの上場を可能にする仕組みづくりだ。米国で新興の電気自動車(EV)企業が新規上場(IPO)することで数兆円の時価総額になることがあるように、売上高や利益ではない「非財務的価値」がクラブにもある。

 ポルトガルやトルコの1部に所属するクラブは、売上高は50億円強だが、時価総額はその3〜4倍なのがその証左だ。例えば、自前のスタジアムを持ちたいと考える場合には、上場は有効な手段になる。決して簡単なことではないが、現状維持は衰退の始まりであり、上場はクラブの価値を高め続けるための大きなモチベーションになるはずだ。

 もう一つは、海外市場の開拓だ。アジア市場の魅力を高めたいが、圧倒的な存在である欧州市場とは現状、大きな開きがある。高額な移籍金が注目されがちだが、年俸そのものは欧州のトップリーグでも平均数億円であり、ピークを過ぎたビッグネームや将来化けそうな若手選手の獲得であればJリーグのクラブも捻出できないことはない。こうした選手が5人、10人と集まれば、コンテンツとしての質や魅力が高まる。

 米国のプロサッカーリーグ(MLS)に欧州の有名選手が移籍することが少なくない。居住環境の良さなどが選手にとっては魅力的である一方で、スタジアムなどプレー環境の面では、Jリーグが上回っていると、何度も現地に足を運んで感じた。やはり、チャンスはあるはずだ。

 2016年、スペインの超名門クラブのレアルマドリードと鹿島アントラーズの試合は、内容も濃く視聴率は20%近くに達した。サッカーに関わる者として誇りだった。世界クラブ選手権の毎年の開催が難しくなった今、荒唐無稽かもしれないが、1つの理想は、Jリーグ優勝クラブが欧州チャンピオンズリーグに出場することではないか。

 さすがにそれは無理でも、小規模な大会への出場は狙いたい。選手は海外に出られるが、クラブにもそういう機会が必要だ。より多くの国内の人に目を向けてもらうために、グローバルな視野でサッカーをとらえる発想が必須と考えトライしていた。クラブ自身が世界との差を体感できる場があれば、関心度とサッカーのレベルを格段に上げるだろう。

クラブにもJリーグにも
不可欠な〝ストーリー〟づくり

 「ストーリーづくり」についても触れておきたい。ファジアーノ岡山は09年にJリーグに加盟した。地元への浸透を目指してメディア戦略など各種施策を試してきたが、最も効果的なのが「ストーリーづくり」だった。

 例えば、地元テレビ局で試合のハイライトを放送してもらう以上に効果的だったのは、選手のバックグラウンドを知ってもらうことだった。出身地や出身校など、ちょっとした情報やストーリーが見ている人に親近感を与え、スタジアムに足を運んでもらえるきっかけになることが分かった。

 そうした意味で、お互いがJ2に所属していた時には、ファジアーノ岡山とカマタマーレ讃岐の試合を「瀬戸大橋ダービー」と呼ぶことでスポンサーを巻き込み、地元をあげて盛り上がるイベントもあった。J1の有名なところでは、FC東京と川崎フロンターレの「多摩川クラシコ」もそうだ。地域だけではなく、全国にも広げられるようなストーリーをつくることができれば、それこそ全国的なイベントにすることができる。


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