2024年4月28日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年12月8日

 11月16日付けフィナンシャル・タイムズ紙社説‘COP27 puts the spotlight on Egypt’s human rights record’は、エジプトによるCOP27主催の機会を捉え、西側諸国は専制的なシシ政権が拘束している多くの人権活動家達、特に生命の危険があるアラー・アブデル・ファタハ氏を解放するよう働き掛けるべし、と論じている。要旨は次の通り。

Manakin / iStock / Getty Images Plus

 シシ・エジプト大統領は、COP27を主催することで世界中に威光を示し、国民に見せかけの指導力を示そうとしたが、COP27はシシ政権のおぞましい人権侵害に対するエジプトの市民社会の怒りを世界に訴え、同政権に圧力を掛ける稀な機会となった。 

 しかし、その間にも、エジプトで最も知られている政治犯であるアラー・アブデル・ファタハ氏(2013年のシシ国防大臣(当時)のクーデターで投獄された何千人もの政治犯の一人)の命は風前の灯火となっている。

 シシ大統領が、エジプトで初めて民主的に選ばれたイスラム原理主義者のムルシー大統領(当時)を追放した数週間後には治安部隊は少なくとも800人のムスリム同胞団員とその支持者を殺害、さらに、ムスリム同胞団と関係のある数千人が投獄され、シシ政権はイスラム原理主義者にテロリストというレッテルを貼り付けた。同政権は、あらゆる抗議を粉砕し、世俗的な活動家達も投獄した。テレビと新聞は口枷を付けられた。

 にもかかわらず、シシ政権は、西側諸国と良好な関係を維持している。西側諸国は、喜んでシシ大統領を招待し、エジプトに武器を売りつけている(2017年から2021年の間、エジプトは世界で5本の指に入る武器の輸入国)。西側の外交官は、エジプトがアラブ世界で伝統的な親西側の国であり、最も人口の多い国であるという戦略的な重要性を有するとして、シシ政権と付き合うためには「静かな外交」が必要であると言う。しかし、この事は西側がシシ政権に外交的、経済的圧力を掛けないことの免罪符にはならない。

 シシ政権はファタハ氏の解放を拒んでいるが、今こそ西側は同氏の解放に向け圧力をかけるべきだ。

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 約10年前、チュニジアで始まった独裁政権に対する民衆デモはチュニジア、エジプト、イエメン、リビアの長期独裁政権を倒した。欧米諸国は、この一連の民衆の行動を「アラブの春」と呼び、アラブの民衆が民主化を求めたと考えて、支援した。リビアでは、「人道的介入」を口実にNATOが空爆して、強引にカダフィー政権を倒した。しかし、その後、エジプトとチュニジアでは独裁体制が復活し、リビアやイエメンでは内戦が勃発した。ちなみに、「人道的介入」は、諸刃の刃であり、今年の2月のロシアのウクライナ侵攻では、ロシア側は、「ウクライナでロシア系住民が虐殺されている」として軍事介入を正当化している。


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