2024年4月25日(木)

Wedge OPINION

2022年12月22日

〝戦前回帰〟との疑念を招かぬか

 昭和にはいると、「国防の本義」は主として陸軍によって、まったく別な意味あいを与えられる。 

 1934年(昭和9年)に陸軍省新聞班(いまでいえば広報室か)が発行した「國防の本義と其強化の提唱」という小冊子を読めば、よくわかる。

 「たたかひは創造の父、文化の母である」(国立国会図書館デジタルコレクション)という戦争礼賛の書き出しで始まるこのプランは、第一次世界大戦による政治、経済の混乱、アジアにおける満州事変など風雲急を告げる情勢を念頭に、戦軍備を拡張し、統制経済を導入、国民への啓蒙を通じて軍主導の高度国防国家を建設、来るべき戦争に備えるのが目的だった。

 陸軍省の佐官クラスの少壮将校が起案。後の国家総動員体制の合言葉ともなった。 

 そういう文書に盛り込まれた「国防の本義」という表現を、現代日本の防衛体制強化を論じる時に持ち出せば、記事執筆記者が意図した加藤友三郎の「避戦」ではなく、戦闘的な意図と誤解されはしないか。批判的な記事はすでにネットなどで散見される。

 そうした懸念を増幅する事実もある。

 安保3文書決定に伴う防衛費増額について、野党や一部メディアは、自民党税調の議論が拙速で、増税時期が明示されなかったこと、国債、復興特別所得税が財源に充当されることなどを強く非難している。

 かつての「國防の本義と其強化の提唱」をめぐっては、1935年(昭和10年)度予算で多額の防衛費を獲得しようと目論んだ陸軍が、要求を通すために発行したと当時の国会で追及され、陸軍が釈明に追われた経緯がある。予算がらみなど二つの構図は実に似通っている。

防衛費増額やむなし、手法は拙速

 今回、岸田政権が決めた防衛費増額そのものをとってみれば、やむを得ないというべきだろう。

 ロシアによるウクライナ侵略、中国による尖閣周辺での度重なる領海侵犯、台湾海峡の緊張、北朝鮮による常習的なミサイル実験……。日本が守りをいっそう強固にすべきと促す要因は枚挙にいとまがない。

 「戦争の音が聞こえる」とか「台湾有事など現実味に欠ける」など防衛力強化や増税に非を鳴らす声があったとしても、こうした現状を考えた時、到底勢いを持ちえないだろう。

 しかし、岸田首相の手法にはやはり問題が少なくなかったといわざるをえない。


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