防衛力強化に慎重な人たちによる「なぜ初めに数字ありきなのか」「増税をめぐる首相の方針が一貫しなかった」などという指摘はもっともに聞こえる。必要な予算を積み上げ、結果的に国内総生産(GDP)2%を超えたというなら理解はできるが、最初に〝数値目標〟を決め、あとから内容を決めるのは順序が逆といわれたのもやむをえまい。
防衛費増額について国民の完全な理解、支援を得るために首相が求められる努力は並大抵のものではないだろう。
100年前の1921年、ワシントン軍縮会議で日本に不利な海軍主力艦制限を受け入れた加藤友三郎の決断は苦渋に満ちていた。海軍省に送った進言では、先に紹介した件の前に「日露戦争のごとき少額の金では戦争はできず・・結論として日米戦争は不可能」という記述がある。
海軍大将として、国内の強い反発を押し切って、仮想敵・アメリカとの戦いに勝ち目はないと公言するのは勇気がいることだったろう。
「戦後の安全保障政策の転換」の実効性を
岸田首相はくしくも、加藤大将と同郷の広島出身だ。
かたや軍縮、かたや防衛費増額という立場の違い、日本を取り巻く情勢の違いはあるにせよ、大先輩のひそみにならい、信念をもって国の守りを説くべきだろう。
首相は「戦後の安全保障政策を大きく転換する」「(防衛能力を)量、質両面で強化する」と見えを切った(12月16日の臨時記者会見)。その哲学が実効性をあげ、国民に受け入れられた時こそ、「令和の国防の本義」になりうるだろう。
『Wedge』2022年8月号で「歪んだ戦後日本の安保観 改革するなら今しかない」を特集しております。
安全保障といえば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。日本人の歪んだ「安全保障観」を、今、見つめ直すべきだ。
特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。
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