2024年12月9日(月)

徳川家康から学ぶ「忍耐力」

2023年1月1日

逆境を順境に変える勇気

 前述した格言「艱難汝を玉にす」は中国の古典のように思えるが、西洋の諺の和訳だ。

 江戸幕府を倒した明治新政府が、西欧の列強諸国に一日も早く追いつき、追い越せとばかり、「和魂洋才」を掲げ、児童教育用に作成した教科書に「艱難汝を玉にす」と訳して掲載したのが始まりらしい。

 英語では〈Adversity makes wise, not rich.〉と言い、「逆境は人を賢くするが、金持ちにはしない」という意味だが、仏語では「金持ちにはしない」は入っておらず、〈L’adversite rend un homme sage.〉で「逆境は人を賢くする」となっているので、もしかするとフランス語の諺を用いたのかもしれない。

 adversity(アドヴァーシティ)もadversite(アドヴェルシテ)も「逆境」という意味である。

 逆境という語句は、今の日本、いや世界を的確に言い表している。

 地球規模で蔓延し続けるコロナ禍、いつ平和が訪れるか予測のつかないロシアのウクライナ侵攻、花火でも打ち上げるかのように日本海へ向かってミサイル発射実験を繰り返す不気味な北朝鮮、現実味を帯びてきた中国の〝台湾進攻Xデー〟、円安のトバッチリを受けて進む値上げラッシュなど、世界の国々はかつてない逆境に立たされている。

 そういう状況下でNHKが大河ドラマの主人公に家康を選んだのは、実にタイムリーだといえよう。「どうする家康」は、そのまま「どうする日本」につながる。

貫いた「今に見ていろ」のハングリー精神

 人は逆境に陥ると、冷静さと前途への希望を失い、前向きに生きようとする意欲が失せがちになる。

 だが家康は、幼少期から青年期へ向かう13年間もの逆境時代を決して無為に過ごさなかった。いつも監視されている窮屈な状況をものともせず、爪を噛みながら文武両道に励んだのである。

 信長、秀吉、家康を「戦国の三英傑」と呼びならわしているが、家康ほど「逆境」という言葉が似合う武将はいないと断言できる。

 家康の胸底で激しく疼(うず)いていたのは、「このまま終わってなるものか」「今に見ていろ」という強い信念だったのではないか。「ハングリー精神」である。言葉を変えると、物心両面の「ひもじさ」。それが家康という人物を限りなく大きく飛躍させたのだ。

 家康にとって、贅沢は敵以外の何物でもなかった。生涯にわたって家康が「質素倹約」を実践し続けたのは、「ひもじさ」こそが人間を大きく成長させる糧であると考えていたからに相違ない。筆者はそう思うのである。

 いかなる逆境に遭遇しようとも、「朝の来ない夜はない」「夢や希望を持ち、それを実現するまでは死ねない」と強く念じながら、死に物狂いで愚直に突き進んでいった家康の生き方は、信長のように華麗ではなく、秀吉のように派手でもないが、今日のわれわれの心を揺さぶるものがあり、大きな勇気を与えてくれる。

 投げ槍にならず、腐ることもなく、自分を磨き続ける家康を見て、今川義元は「ただ者ではない」と見抜き、アメとムチによる教育で鍛えた。そこには義元流の計算があった。後継者となる予定の息子氏真(うじざね)は、親の欲目で見ても「凡庸」というより「暗愚」だったので、そのサポート役に家康を当てようと考えていた節が感じられる。

 そういう処遇に家康は恩義を感じ、義元が討たれると家康は「父上の弔合戦を」と働きかけたが、氏真は動こうとせず、歌や蹴鞠に興じてばかりいたので、さすがに家康も見限るのである。


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