次期下院議長就任が有力視されているケブン・マッカーシー議員が就任後、「台湾訪問」を予告していることがその一つだ。
もし実現すれば、去る8月、ナンシー・ペロシ議長の電撃訪問に続き2年連続となり、米中関係を一層緊迫させることにもなりかねない。
中国は、ペロシ訪台の際には、強硬に反発、同国外務省が北京駐在のバーンズ米国大使を夜中に本省へ呼びつけ「ペロシ議長は意図的に挑発を行い、台湾海峡の平和と安定を破壊した。その結果は極めて重大で決して見逃すことはできない」と激しく非難したほか、その直後には数回にわたり、台湾海峡周辺で大規模軍事演習に乗り出したことは記憶に新しい。
しかし、三権分立の国家とはいえ、米議会の長で大統領継承順位第2位の要職にある下院議長が再び台北に乗り入れることになれば、中国にとって一層の威信低下につながり、米中関係はより深刻な事態を招く恐れがある。
バイデン大統領としては、中国に関しては基本的には「管理された戦略的競争相手managed strategic competitor」(ケビン・ラッド元豪首相)の考えを支持してきただけに、無用な混乱要因はできるだけ回避したいところだろう。
目が離せない経済動向
一方、内政に目を向けると、米国民の最大関心事は何といっても、諸物価高騰と景気後退への懸念だ。
この点に関連し、ホワイトハウス国家経済会議のブライアン・ディーズ委員長は、政治メディア「Politico」とのインタビューの中で、23年優先課題について以下のように語っている:
「第一目標は、これまでの経済成長のプラス部分を犠牲にすることなく、諸物価をいかに抑え込むかにある。政府はこの一年、巨大インフラ投資計画、半導体生産助成などの法案を成立させ、追い風ムードに入っているが、これらをいかにスピーディーにシステム化するかが、1月1日からの非常に大きな課題になる。同時に、『インフレ抑制法』も議会を通過させたが、インシュリン投与価格の35ドル上限額設定など市民生活に直接影響を及ぼす措置の早期実施が求められる」
「大統領経済戦略のもう一つの柱は、より強力で幅広い経済成長のための基盤づくりである。言い換えると、経済成長潜在力の拡大にほかならない。われわれは今、インフラ投資拡大法に盛り込まれた重要な諸要素をこれから実行に移そうとしている段階であり、具体的には、高速インターネットなど、イノベーションにつながる私企業への投資をいかにクラウド化させていくかが問われている」
「米経済界は、政府の長期的かつ安定的公共投資の恩恵もあり、従来の考えを改め、さまざまなインフラ分野、半導体生産、風力発電などの重要性に目を向けつつある。政府としても、こうした極めて重要な動きをスピード感をもってできるだけ支援していくことが特に求められている」
ただ、経済界にはその一方で、連邦準備制度理事会(FRB)の高金利政策が今後も続けられる場合、23年内には、景気後退入りは避けられないとの悲観的見方が根強い。
この点で、ホワイトハウス国家経済会議委員長が列挙した優先課題が果たして期待通りの成果に結びつけられるかどうか、さらに、連邦議会とくに、下院共和党の協力と理解をどこまで得られるかなど、依然として未知数のままだ。
苦しい立場の移民・難民対策
このほか、中南米から急増しつつある移民・難民対策も、無視できない問題だ。とくにメディアの関心はもっぱら、移民制限措置をめぐる与野党の確執に注がれている。
トランプ政権は2020年当時、移民の急増を防止するため、公衆衛生上の理由による移民制限を認めた「公衆衛生法第42項Title 42」に依拠した入国禁止措置を打ち出した。その後、21年スタートしたバイデン政権も、全米でコロナ感染危機が深刻化したこともあって、基本的にはこの路線を踏襲して今日に至っている。しかしこの間、メキシコ国境から侵入を試みたハイチ、ベネズエラ、キューバなどからの不法入国者のうち、国境警備隊が強制的に国外追放した移民希望者は240万人にも達し、人道上の危機に発展してきた。
こうしたことから、人権団体が「第42項」撤廃を求めてワシントン連邦地裁に提訴、これを受けて同地裁がいったんは、「22年12月21日」の期限つきで撤廃を支持したが、共和党が異議を唱え上訴したため、最高裁の最終判断が注目されていた。