2023年11月29日(水)

2024年米大統領選挙への道

2022年12月12日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「トランプか、デサンティスか――MAGAはどちらにつくのか?」である。反トランプの共和党系スーパーPAC(特別政治行動委員会)であるリンカーン・プロジェクトは、2019年12月に発足した。2020年米大統領選挙と米中間選挙では、ジョー・バイデン大統領の援護射撃を行った。

 2024年米大統領選挙において、リンカーン・プロジェクトはMAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大に)とドナルド・トランプ前大統領、ロン・デサンティスフロリダ州知事の「三角関係」が、どのように展開すると予測しているのか――。

トランプ氏(左)と、ディサンティス氏(REUTERS/AFLO)

「彼等の米国か、われわれの米国か」

 選挙資金の流れを追跡している独立系団体オープン・シークレッツによれば、リンカーン・プロジェクトは20年米大統領選挙で8740万ドル(約120億円)、22年米中間選挙で2915万ドル(約40億円)の資金を集めた。中間選挙では、トランプ氏が推薦したMAGA候補を攻撃するために、資金を政治広告に費やした。

 前回の米大統領選挙で「米国かトランプか」というメッセージを発信したリンカーン・プロジェクトは、今回の中間選挙では「彼等の米国か、われわれの米国か」という新しいメッセージを送って、米国民に選択を迫った。その上で、「選択は簡単だ」と述べた。もちろん、「われわれの米国」である。

 「彼等」は政治的暴力に出る過激主義のMAGA、「われわれ」は民主主義に価値を置く人々を指す。つまり、「MAGAの米国か、民主主義の米国か」に置き換えることが可能である。

 また、リンカーン・プロジェクトは21年1月6日に発生した米連邦議会議事堂襲撃事件を引き出して、「MAGAは民主主義を破壊する。あなたの票にかかっている」と強調した。共和党系の同プロジェクトとジョー・バイデン大統領のメッセージが一致している点は看過できない。

 その背景にはある理由がありそうだ。リンカーン・プロジェクトの顧問の1人であるスティーブ・シュミット氏は、08年米大統領選挙の共和党大統領候補であった故ジョン・マケイン上院議員(西部アリゾナ州)の選対本部長を務めた。トランプ前大統領は、ベトナム戦争で捕虜となったマケイン議員を「ヒーローではない」とこき下ろした。一方、バイデン大統領は上院議員時代に、一緒に妥協点を探ったマケイン氏に敬意を示している。このあたりも同プロジェクトがバイデン氏を応援している一因だろう。

「MAGA共和党はプーチン党」

 リンカーン・プロジェクトはMAGA候補とトランプ氏を標的にした政治広告を打って、批判を繰り返した。例えば、西部アリゾナ州の州務長官の選挙において、トランプ氏が推薦したMAGA系のマーク・フィンチェム候補(当時)を「米議会襲撃事件の参加者」「陰謀論を広げるQアノンのおたく」「極右団体オース・キーパーズのメンバー」及び「郵便投票の廃止論者」であると訴えた。

 さらに、リンカーン・プロジェクトは極右のMAGA系下院議員マージョリー・テイラー・グリーン氏(南部ジョージア州)が、ウクライナ支援の見直しを主張している点を取り上げて、「MAGA共和党はプーチン党だ」と批判する政治広告を流した。

 ちなみに、雑誌エコノミストと調査会社ユーゴヴの共同世論調査(22年12月3~6日実施)によれば、20年米大統領選挙でトランプ氏に一票を投じた有権者の30%が、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領に「好感が持てない」と回答した。トランプ支持者は、ゼレンスキー大統領に対して必ずしも好感を持っている訳ではない。


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