今回のテーマは「バイデン上院多数派維持とMAGAの行方」である。ジョー・バイデン米大統領率いる与党民主党は西部ネバダ州上院選で勝利し、多数派を確保する見通しとなった。民主党が上院で多数派を維持できた主たる理由は何か。一方、ドナルト・トランプ前大統領が主導するMAGA共和党(Make America Great Again:米国を再び強くする)の行方は――。
成功した選挙戦略
民主党が上院で多数派を維持し、下院で善戦している理由は選挙戦略にある。民主党は共和党予備選挙でトランプ前大統領が推薦したMAGA候補に政治資金を費やし、政治広告を打って支援した。その狙いは、本選に中道派ではなく過激主義のMAGA候補が進めば、彼等に対してアレルギーを持つ無党派層や若者が投票所に出向くと計算したからだ。
米紙ワシントン・ポストのベテラン記者ダン・バルツは、民主党が20年米大統領選挙結果の否定論者であり、民主主義に対する脅威でもあるMAGA候補を応援した戦略に関して、リスクがあったとしながらも成功したと評価した。
また、バイデン大統領は民主党が強い「青い州(青は民主党のシンボルカラー)」、バラク・オバマ元大統領は激戦州を訪問して支持を訴えるという「役割分担」並びに「棲み分け」の選挙戦略も功を奏した。民主党はバイデン氏よりもヒスパニック系から人気があるオバマ氏を11月1日西部ネバダ州、翌2日アリゾナ州に投入し、ヒスパニック票の獲得に動いた。
ネバダ州は人口の28.7%(20年)、アリゾナ州は32.2%(21年)がヒスパニック系である。民主党は上院選において激戦州ペンシルベニアで金星を挙げた後、アリゾナ州とネバダ州で勝利を収めて50議席に達し、多数派を維持できた。この2州におけるオバマ投入の効果は、決して看過できない。
さらに、バイデン氏が政策と票を結びつけた点も、上院における多数派確保につながった。一例を挙げれば、学生ローン返済の一部免除である。すでに2600万人が免除の申請を行った(22年10月時点)。
雑誌エコノミストと調査会社ユーゴヴの共同世論調査(同年8月28~30日実施)によれば、「学生ローン返済の免除は、特に低所得者の家庭を助ける」という声明に対して、18~29歳の若者の66%が賛成した。「学生ローンの債務は若者が家を購入し、子どもを持つという目標の妨げになる」という声明に対しては、若者の60%が賛成している。バイデン大統領の学生ローン返済の一部免除の政策は、若者および黒人、ヒスパニック系から支持を得た。
バイデン大統領は11月9日、ホワイトハウスで記者会見を開き、「若者が投票に行った。2018年と同じぐらい歴史的な若者の投票率になる」と述べた。翌日、ワシントンにある民主党全国委員会を訪問して、スタッフに感謝の言葉を述べた際も、若者の高い投票率に言及した。若者の投票率向上の一要因には、この政策があることは間違いない。
選挙戦最終盤にナンシー・ペロシ下院議長(民主党)の夫が、20年米大統領選挙結果の否定論者によってハンマーで襲撃される事件が発生すると、バイデン大統領とオバマ前大統領は、「中絶対インフレ」から「民主主義対インフレ」に対立構図を変えるという賭けに出て、政治的暴力反対を訴えた。投開票日10日前の選挙戦略の変更にはリスクがあったが、21年1月6日に発生したトランプ支持者による米連邦議会議事堂襲撃事件を有権者に思い出させた点で効果があったと言えよう。
本稿の執筆時点では下院の結果は出ていないが、高いインフレ率とバイデン氏の支持率低迷という圧倒的な不利な条件を抱えながらも、民主党は上記で述べた選挙戦略で、この中間選挙を乗り切ったことになりそうだ。